大きな音が苦手…子どもの感覚過敏に向き合う|理学療法士が伝える!楽しくすくすく育つコツVol.28

みなさんは、毎日の子育てを楽しんでいますか。喜びを感じるひとときもあれば、ふと「こんな時、どうしたらいいの?」「これって、このやり方でいいの?」と、迷いが出てくることもあるのではないでしょうか。運動発達の専門家である理学療法士・得原藍さんによる、楽しみながら子どもの育ちをうながす親子の関わり方のコツを教わる連載です。

目次
1.大きい音を怖がる……これって感覚過敏?
2.まずは園の先生に相談してみても。率直に困りごとを伝えよう
3.感覚の閾値(いきち)にはかなりの個人差がある
4.対処法① 説明する、シミュレーションする。困る状況に先手を打つ
5.対処法② 自分の意志で動くのを待つ
6.子どもがどんな場面で困っているか、どう解決するかを考えよう

大きい音を怖がる……これって感覚過敏?

藍さんこんにちは、もうすぐ5歳になる男の子の母です。子どもが音に敏感なのが気になっています。たとえば、家の中だと掃除機や洗濯機の音、外だとスーパーや駅の騒音を怖がって耳をふさぐことが多いです。幼稚園でもにぎやかに遊ぶ子たちと距離を置いているようで、運動会のときにはピストルの音に驚いて泣き出し、走ることができませんでした・・・性格もあるのかな?と思いつつ、この先学校生活も始まることを考えると、支障が出てこないか心配です。受診するとしたらどこに相談すべきか、また、対応方法など教えていただけるでしょうか。

まずは園の先生に相談してみても。率直に困りごとを伝えよう

こんにちは、ご質問ありがとうございます。5歳の男の子が、音に敏感なのが気になるというご相談ですね。5歳ということは、年中さんでしょうか。大きくなってきて、少しずつ社会や集団での活動も多くなると、いろんな音に出会うようになりますね。

受診するとしたらどこに相談すべきか、という点にまずはお答えすると、身近な公的機関としては、各市区町村が設置している児童発達支援センターや(東京都では子ども家庭支援センターと呼ばれているなど、呼称については自治体によるようです)、保健センターなどがあります。また、自治体に問い合わせれば、それぞれの自治体にどのような相談場所があるのか教えてもらうこともできます。そういった場所で話をしてみて、もし具体的に何か支援が必要ということになれば、療育などに繋いでくれることもあります。また、最初から療育の専門家のいる施設もあるので、そこで直接相談できるかもしれません。

けれども、お子さんは幼稚園に通われているのですよね。まずは幼稚園の先生に、幼稚園での生活でどのようにお子さんが困っているか、聞いてみるのはどうかしら、とも思います。家庭と同じような状況でお子さんが困っているのか、幼稚園の先生たちから見てその様子は集団の中でどの程度のことなのか、お子さんが「一番困っていること」「困っていないこと」について、相談してみてください。もしかしたら、幼稚園の先生方が何かしら「こんなときにはこうすると大丈夫そう!」というアイディアを持って実践されているかもしれません。身近で、お子さんをよく知っている専門家なので、頼ってみてください。その際に、漠然と「うちの子どうですか」と質問するのではなく、「掃除機やスーパーの人混みの中での音が嫌いで耳を塞いでしまうのですが、幼稚園では困った様子はありますか。」「本人が困っているとしたら、どのようなときに困っていますか。」「先生はそんなときどのように対応されているか、家庭でも取り入れてみたいので教えてください。」と、お母さんから見たお子さんの「困りごと」を、率直に伝えてみましょう。きっと親身にお話を聞いてくださると思います。

感覚の閾値(いきち)にはかなりの個人差がある

対応方法についてですが、まずは感覚について、少しお話しさせていただいて、感覚についての理解を深めてみましょう。
お子さんは音に敏感なのではないか?というご質問でしたね。専門的な言葉を使うと、聴覚過敏なのではないか?ということですね。
感覚にはいろいろあって、たとえば、触覚や視覚、味覚などはお母さんもご存知だと思います。そのほかにも、痛みや温度を感じる感覚、大きな力を出す感覚、ぎゅっと握られるような圧力を感じる感覚、関節を動かす感覚、頭部が回転することで感じる回転の感覚など、実はわたしたちの身体にはたくさんの「感覚」があります。
それぞれの感覚には「閾値(いきち)」というハードルのようなものがあって、外からの刺激情報(聴覚ならば音)がそのハードルを越えると、誰でも不快を感じます。猫舌は、温度の感覚が敏感な人の反応ですし、大人が急に逆上がりしたりするとクラクラっとする、というのも、刺激に対して過剰に反応する過敏さと呼ぶこともできそうです。感覚が過剰かどうかを判断するハードル(閾値)には、かなり個人差があります。全く同じ刺激を受けても、それを「弱い」と捉えるか「適度」と捉えるか「強い」と捉えるか、人それぞれなのです。さらに、感覚は状況によっても変化します。ずっと大きい音がするところにいると小さい音を感じなくなりますし、ずっと寒いところにいると適温であるはずのお風呂の温度がいつも以上に熱く感じたりもします。また、経験によって脳が「これは大丈夫」と判断することである程度我慢できるようになることもあります(フィギュアスケートの選手は目が回りづらいですよね)。その上、感覚は体調や環境の状況によっても変化します。感覚って、「わたしは大丈夫だからあなたも大丈夫なはず」という理論があまり通じない、状況適応的な能力なのですね。そうでなければ、さまざまな環境変化のなかで人類という生命が繁栄することは無かったのではないかと思います。

このように考えてみると、子ども時代に感覚の個人差が大きいのはある意味、普通です。子どもたちは「こういうときは大丈夫」と判断できるだけの人生の経験を積んでいませんし、そもそも身体全体が成長の過渡期にありますから、受け取る側の自分が変化しているので「感覚刺激が安定した状況」を生み出すことが難しいのです。

対処法① 説明する、シミュレーションする。困る状況に先手を打つ

では、音に困っているお子さんとの生活のなかでできる対処法にはどのようなものがあるでしょう。
ひとつは、お子さんが困る状況に先手を打ってあげることです。これからどのような音がするか、説明可能なときにはできるだけ説明してあげましょう。可能な場合とそうでない場合があると思いますが、例えば「これから掃除機をかけるよ」とか「今日はちょっと騒がしい場所に行くよ」と声をかけてみてください。心構えができているのといないのとでは、状況を判断する容易さが違います。運動会のピストルの音も、動画サイトなどで「こんな音がするよ」「もしドキドキするなら、ピストルがなる前から耳を塞いでおいてもいいよ(みんなが走り出すのと同時に走り出せばいいよ)」と伝えてはどうでしょうか。運動会など特別な場面では、特別だからこその緊張がさらに敏感さに拍車をかけている場合もあるので、できるだけリラックスするためにもシミュレーションは役に立つと思います。

対処法② 自分の意志で動くのを待つ

それから、同じように先手を打つ別の方法として、急がば回れ、があります。例えばうるさい場所に行くときには、「お母さんについていく」のではなく、「自分でその場所に入っていく」ようにします。わたしたちの感覚は不思議なもので、「自分の意志で動くとき」には感覚の認知のしかたが違うのです。自分から音に近づくのと、音が自分に近づいてくるのとでは、その刺激の感じ方が異なります。子どものペースに合わせることができない場面も多いと思いますが、そこは、急がば回れ。お母さんが「あ、ここはまずいかもな」と思ったときには、その場に慣れて自分で一歩踏み出すまで待ってあげてみてください。

子どもがどんな場面で困っているか、どう解決するかを考えよう

いま、さまざまな場所で感覚過敏という言葉が使われていて、感覚過敏=発達障害なのではないか、と不安になる親御さんにたくさん出会うようになりました。感覚過敏があるから発達障害である、ということではないということをご理解ください。また、発達障害ならば感覚過敏である、ということも一概に言えません。それらは、それぞれ別の状態だと思ってください。
また感覚については、過敏なことばかりが問題視されていますが、鈍感な場合もあります。同じように「過敏でない」子どもの中にもグラデーションがあります。大切なのは、「その子がどのような場面で困っていて、その場面を解決するにはどのような方法があるか」ということを考えることです。5歳の子でしたら、どのようなときに困っているか、本人が簡単に説明できることもあるかもしれません。まずは、本人に聞いてみる。それから、自分以外の身近な大人にお子さんが困っている様子はないか相談してみる。その上で、お母さんが「うちの子は本当に困っているようだ」、と思ったら、実際にお子さんを連れて、専門家に相談を寄せてみましょう。

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ライター / 得原 藍

理学療法士。大学卒業後、会社員を経て理学療法士の資格を取得。病院勤務を経てバイオメカニクス(生体力学)の分野で修士号を取得。これまでの知識や経験を生かし、現在は運動指導者の育成、大学の非常勤講師などを務める。また、子育て支援団体との協働で運動発達に関する相談を受けたり、外あそび活動などを行っている。6歳男児の母。