マタニティピラティスをはじめとして、女性のためのプログラムをオンラインで提供している竹下浩美さん。10年以上、グループレッスンのインストラクターとして活動していましたが、現在はパーソナルレッスンに新たな可能性を見出しています。
竹下さんに、産後女性向けのインストラクターを志した経緯や、そこで気づいたこと、今後の展望について伺いました。
「この人の痛みをどうにかしたい」がきっかけ
八田:これまで産前産後の運動について伺ってきましたが、今回は、竹下さんが産前産後の女性向けにフィットネスを提供しようと思ったきっかけから教えてください。
竹下:大学卒業後、スポーツメーカーの営業事務やテーマパークのダンサーを経て、20代後半からピラティスのインストラクターとして仕事を始めました。するとスタジオに、産後の女性が来ることがありました。
レッスンの前には、身体の不調や気になる部分をヒアリングするのですが、出てくるのが、これまで自分が体験したことのないようなものなんです。尿もれや腱鞘炎、お腹ぽっこりが治らない…とか。
これは、一般的な身体に対する知識ではなくより専門的な知識が必要だと感じました。もっと産後の体のことを勉強しないと、せっかく来てくれたこの人に申し訳ないと思ったんです。もっとこの人の状態を効果的に改善する為にできることがあるはず、それを見つけたいと。今パーソナルレッスンを中心にしていますが、よくよく考えるとこの頃から「個人の悩みを解決したい」という思いをもっていたことに気づきます。
八田:グループレッスンのインストラクターとして活躍していた竹下さんですが、パーソナルレッスンに関心が向いたのはなぜですか。
竹下:目の前の人の話を聞いたり、身体の様子を見ながらやりとりしたり、個別にアプローチを工夫していくことが好きなんですよね。グループレッスンだと、どうしても運動強度について、クラスの中の「真ん中ぐらいの人」に向かってレッスンを行なうことになります。その中で個別に伝えることもありましたが、もっと個別対応できたらいいのに、という気持ちが年々強くなってきていて。独立を機に、パーソナルレッスン中心のスタイルへと大きく転換することにしました。
「運動したい」は8割、実際するのは2割
竹下:以前出た勉強会で、産前産後に「運動したい」「運動するべきだ」と感じている人は8割なのに対し、実際に運動をした人は2割程度という調査結果を聞きました。このギャップ、なぜだと思いますか?
八田:そうですね…忙しいから、でしょうか。
竹下:半分「あたり」ですね。ネックになるのは「時間」と、もうひとつは「お金」なんです。
八田:なるほど。産前産後の時期は、「自分のことのために使える時間とお金なんてない」と考える人が多そうですね。
竹下:特に出産後はその傾向が強いですよね。第一子の産後は赤ちゃんのことにいっぱいいっぱい、第二子の産後では上のお子さんもいらして運動どころではないかもしれない。運動することの重要性を知らなければ。コロナ禍で、フィットネスの世界も急速にオンライン化が進みました。この流れが、運動をしたい産前産後の人にとっては追い風になるかもしれません。オンラインなら移動の時間がカットできますし、スタジオ代がかからない分、受講料を抑えることもできます。以前より、気軽に始められる環境は整ってきていると思います。
八田:なるほど。わたしのように運動に対して腰の重いタイプにこそ、オンラインプログラムは合っているのかもしれませんね。
竹下:とはいえ、見ず知らずのインストラクターにプライベートレッスンをオンラインで申し込む、というのはハードルが高いですよね。実際、今のところはリアルなレッスンでご縁があった方や、その方のご紹介中心のお申し込みになっています。まだ出会ったことがない人にどうやって出会っていくか、そして運動の必要性をどのようにお伝えしていくか、今後の課題です。
女性の人生に寄り添うインストラクターでいたい
八田:竹下さんの、今後の展望についてもぜひ教えてください。
竹下:1回目でお伝えした現代人の運動不足問題や、高齢化に伴う身体機能の低下の問題などもあり、今後、フィットネスの重要性はますます高まっていくと思っています。しかし実は今、インストラクターって飽和状態なんですよ。資格をとっても開業しない、開業しても収益を上げるまでには至らないという人も、とても多いです。
八田:そんな中で、竹下さんはどのようなインストラクターとしてやっていきたいと思いますか。
竹下:最近では、乳がんを罹患された方へのピラティスを学んでいるところです。手術や治療でダメージを受けた身体にまた自信を取り戻せるように回復させるためのプログラムです。
他にも、側弯症とピラティスについても学んでおり、今後は更に、坐骨神経痛や四十肩などについても学ぶ予定です。学ぼうと思ったきっかけは、産後について学ぼうと思った時と全く一緒です。「目の前にいる人の不調を取り除く手助けがしたい!運動を通して笑顔になるお手伝いをしていきたい!」私の全ての学びはここに繋がっているんだと思います。
八田:他に、やってみたいことはありますか。
竹下:グループレッスンの体験から、受講者どうしの横のつながりがいいものだし、必要ないいものだとも思っていて。オンラインであっても、パーソナルであっても、受講者どうしがつながれる仕組みをつくってみたいです。特に産後は、他のお母さんや赤ちゃんの様子を知るだけでも安心できる、ということもあると思うので。
最初にお伝えしたように、学生時代の体育や部活動を最後に、多くの人が運動から離れてしまいます。学生時代の体育が大嫌いだったという方もいるでしょう。産前や産後といった人生の特別な時期に運動と出会い直すことが、生涯にわたる運動習慣づくりのきっかけになるといいな、と思っています。
プロフィール/
竹下浩美 Hiromi Takeshita
FTP認定ピラティス&マタニティピラティスインストラクター。自身の出産後、NPO法人マドレボニータ認定産後セルフケアインストラクターとして、のべ3,000人の産後女性に産後ケアを提供。2021年に独立後、日本母子健康運動協会で産前産後の運動指導について学びを深め、ピラティスを軸とした産前産後エクササイズを行なっている。また、産前産後のみならず様々な不調の改善に寄り添えるよう、乳がんの為のピラティスや、メディカルピラティスの学びを続ける。現在はオンラインを中心にレッスンを行いつつ、出張パーソナルレッスンにも力を注ぐ。
https://linktr.ee/hiromi_takeshi
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