赤ちゃんにかかりきりの産後こそ、自分自身のために身体を動かす時間を。|ピラティスインストラクター竹下浩美さんvol.2

赤ちゃんとの生活が始まる産後。自分の身体のことはつい後回しになりがちです。しかし、出産によって受けた身体のダメージ回復のためにも、また、心を健康に保つためにも、運動は効果をもたらします。

オンラインで女性向けにピラティスのプログラムを提供している竹下浩美さんに、産後の運動について、お話を伺いました。

産後の身体に起きていること

八田:今日は産後の運動について教えてください。産後の運動のポイントはなんですか?

竹下:前回、妊娠期には胸部が前かがみに、腰が反り腰になってしまうというお話をしました。出産を終えても、このカーブは自然に戻ってくれるわけではありません。出産して1年ほど経った人でも、上体を反らすことができない人が多いんです。

八田:体が元に戻らないまま、赤ちゃんとの生活がスタートするわけですね。自分の産後、とにかく身体がしんどかった理由が少しわかったような気がします……。身体のカーブが元に戻らないことで、具体的にはどのようなマイナス面がありますか。

竹下:血行にはよくないので乳腺炎などのトラブルにつながりやすいですし、肩こり、腰痛の原因にもなります。また、メンタル面への影響もあるとされています。

八田:メンタル面にも関わってくるんですか。それは意外です。

竹下:授乳やおむつ替えなど、産後は前かがみの姿勢が多くなりがちです。前かがみの姿勢が多いと、だんだん気持ちが沈んでくると言われています。姿勢って、感情と密接に関わっているんです。「だから、背筋を伸ばして生活しましょう」と言いたいところなんですが、産後は腹筋や背筋も落ちているので、伸ばした姿勢が保持できないんですよね。

八田:ということは、産後の運動は身体のカーブを元に戻すことと、腹筋背筋へのアプローチになりますか。

竹下:その通りです。特に産後は、腹筋群の強化をはかることが大切です。というのも、腹筋群は妊娠中に鍛えにくい部分なので、案外衰えているんです。

そこで、わたしのレッスンでは、一番奥にある腹横筋からしっかり使えるようにしていきます。こうしたエクササイズはピラティスの得意分野です。骨盤底筋、横隔膜、腹横筋、多裂筋にアプローチし、体の土台を鍛えていきます。一般に「コア」と言われる部分ですね。

身体の健康・心の健康・社会的な健康

八田:産後は身体面だけでなく精神面もダメージを受ける人が多いです。出産後の女性の10%前後が「産後うつ」に罹患すると言われていますが、特にこの1年はコロナの影響もあり、産後にうつ症状が出る女性の割合が出産後1年近くにわたり減少せず、同じ水準で推移している、との調査結果も出ています(筑波大松島みどり准教授による調査,2020年)。

竹下:WHOによる「健康」の定義として、「身体の健康」「心の健康」そして、「社会的な健康」という3つの軸があります。出産後は、その3つが阻害されやすいんです。

八田:3つのうち「社会的な健康」は初耳です。どういうことをさしますか。

竹下:社会的健康とは、他者や社会とよい健康を築けている、社会参加がなされている状態のことです。

わたし自身は、第一子の妊娠中から、3つの中でも特にこの「社会的な健康」をそこなわれたと実感していて、それがとても辛かったです。妊娠をきっかけにピラティスインストラクターの職を失い、社会に戻れる確証もないまま、出産をしました。幸せな気分の中にも不安と辛さが混じって、複雑な気持ちでした。「身体・心・社会」のどこか1つが損なわれると、ドミノ倒しのように他の健康も失われていくことを痛感していました。

八田:逆にいうと、どこかひとつが上向くことで、全体が底上げされていくことにつながるかもしれませんね。身体へのアプローチは具体的なので、最初のきっかけとして適切なのかもしれません。

竹下:そう思います。元々専門がフィットネスの分野なので、今は「身体の健康」に特化したプログラムを行っています。レッスンをして様々な声を聞いていると、たとえ1対1だとしても「社会的な健康」にも少しは貢献できているのではないか、とも思います。今後は、「心の健康」も含め、3つの健康に対してより効果的なアプローチができるプログラムも考えていきたいと思っているところです。

運動後の深い呼吸が気持ちの安定につながる

八田:ピラティスを産後に行う良さについて、もう少し教えてください。

竹下:前回お話していませんでしたが、妊娠中にお腹が大きくなることで、横隔膜の動きが悪くなってしまいます。これは、多かれ少なかれ誰にでも起こることです。妊娠中に息切れしやすいというのも、ここに関わってきます。

ピラティスでは、胸式ラテラル呼吸をしながらエクササイズを行います。この呼吸は、お腹を膨らますのではなく、肋骨を動かすことを意識します。肋骨を動かすためには、鎖骨、肩甲骨、首についている筋肉、そしてもちろん横隔膜もしっかり使わなければなりません。

呼吸って、実はけっこう筋力を使うんですよ。この「呼吸」へのアプローチが、産後の身体にはとてもいいんです。

八田:あまりそういうイメージはありませんね……。肺って鍛えられるんですか。

竹下:肺そのものは、鍛えることはできないです。でも、身体にしっかり酸素を取り込む為の筋肉を、ピラティスで鍛えることができます。ピラティスは、呼吸を意識しながら、深部の筋肉まで使えるように働きかけます。そうすることで呼吸が深くできるようになっていきます。深い呼吸によって自律神経を整えていくわけです。

八田:竹下さんのエクササイズを先日体験させてもらったのですが、たしかに、終わった後呼吸がしやすくなった感じがありました。夜もぐっすり眠れました。

竹下:どうしても睡眠時間は短くなりやすいので、眠れる時にぐっすり眠れるのも、精神的な安定のために大切なことですね。

八田:夜中の授乳や赤ちゃんの夜泣きなどで、どうしても細切れ睡眠になりがちな時期です。「眠りたいのに眠れない」と精神的に追い詰められるケースもとても多い。深く呼吸ができ、ぐっすり眠れるというのは、産後女性にとって本当に大切なことですね。

プロフィール/
竹下浩美 Hiromi Takeshita
FTP認定ピラティス&マタニティピラティスインストラクター。自身の出産後、NPO法人マドレボニータ認定産後セルフケアインストラクターとして、のべ3,000人の産後女性に産後ケアを提供。2021年に独立後、日本母子健康運動協会で産前産後の運動指導について学びを深め、ピラティスを軸とした産前産後エクササイズを行なっている。また、産前産後のみならず様々な不調の改善に寄り添えるよう、乳がんの為のピラティスや、メディカルピラティスの学びを続ける。現在はオンラインを中心にレッスンを行いつつ、出張パーソナルレッスンにも力を注ぐ。

https://linktr.ee/hiromi_takeshi

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ライター / 八田 吏

株式会社 元中学校国語教師。産後ケアの普及に取り組むNPO法人にて冊子の執筆編集に携わったことをきっかけにライター、編集者として活動開始。小学生・中学生の男児、夫と4人暮らし。