子どもが歩くのが遅く、気になっています:理学療法士が伝える!楽しくすくすく育つコツVol.31

みなさんは、毎日の子育てを楽しんでいますか。喜びを感じるひとときもあれば、ふと「こんな時、どうしたらいいの?」「これって、このやり方でいいの?」と、迷いが出てくることもあるのではないでしょうか。運動発達の専門家である理学療法士・得原藍さんによる、楽しみながら子どもの育ちをうながす親子の関わり方のコツを教わる連載です。
<目次>
1.うちの子、歩くのが遅いかも・・・
2.「もう少しちゃっちゃと歩いて欲しい」。その気持ち、よくわかります
3.自分だけのゆったりとした時間を味わっているときも
4.降園時に寄り道をすれば、運動の機会に

うちの子、歩くのが遅いかも・・・

藍さんこんにちは!3歳8ヶ月の子どもの母です。春から幼稚園に通いはじめました。一緒に登園、降園するようになってから、子どもの歩くのが遅いことが気になっています。幼稚園に着くまでに、ほとんどのお子さんに追い越されながらやっと着く、という感じです。遅生まれで体は大きい方なので、よけい目立つというか、気になってしまいます。どうも足の運びが頼りない感じで、途中で止まったり、道の脇にそれたりもするので、いつも結局手を引っ張って連れていってしまうことに・・・。
もともと外遊びや散歩が好きではなく、ついつい室内遊びや車での移動が多くなっていたのですが、そのせいもあるでしょうか。いまからでも気をつけるべきことはありますか。

「もう少しちゃっちゃと歩いて欲しい」。その気持ち、よくわかります

こんにちは、ご相談ありがとうございます。3歳8ヶ月のお子さんがいらっしゃるのですね。幼稚園の年少さんですね。新しい生活、お子さんは少しずつ慣れてきた頃でしょうか。お母さんも毎日の通園準備や送り迎えなど、慣れるまではなかなか大変なもの。体調に気をつけて、ゆっくりペースを掴んでいってくださいね。

ご相談の内容を拝見してまず感じたのは、お母さんがお子さんが歩く様子をしっかり観察できているなあ、ということです。足の運びにも目を向けていて、お子さんの成長を見守りながら育児をされてきたのだなと思いました。でも、ちょっとお子さんの歩くペースが遅いのではないか、と気になるのですね。通園時間のこともありますし、大人としてはできればちゃっちゃと歩いてもらいたいなあ・・・という気持ちになるのもよくわかります。

自分だけのゆったりとした時間を味わっているときも

今日はまず一緒に、お子さんの目線で今の状況を捉えてみようと思います。3歳8ヶ月の幼稚園スタートって、いったい子どもたちにとってどのようなものなのでしょう。実は幼稚園生活って、「生まれて初めて」がいっぱいなんですよ。

まず、これまでの生活と一番違うところは、幼稚園が集団生活の場だということです。同じ世代のたくさんの子どもたちと1日を過ごしますね。これまで自分の言うことや考えていることを汲んでくれる大人ばかりだった世界から、まだまだ言葉も身体も未熟な子どもたちの集団に参加していくわけですから、新しい刺激に溢れた場所に向かっているわけですね。3歳は、そろそろ自他の区別がはっきりついてくるとき。いろいろ周りの環境に好奇心のあるお子さんにとっては、毎日が新しい刺激に溢れた世界でしょう。わたしたち大人も、パーティや会合の後などは目が冴えて眠れないことなどがありますね。幼稚園に入りたての子どもたちは、毎日、ドキドキと神経が興奮する経験をしています。そんなお子さんにとって、お母さんとのんびり外を歩く時間は、ゆったりした気持ちを保てるいい時間でしょうね。途中で止まって、道端の草を眺めたり、あっちの道が気になって向かってみたり、幼稚園では皆と同じことをしなければいけないことも多いですから、自分だけのゆったりした時間を味わっているのかもしれません。もちろん、登園時間が気になる大人は急がせたくもなるのですが、お子さんが「今日もこれから一人でがんばってこようとしている」と思うと、隣でゆっくり歩きたい気持ちになりますね。

「毎日のルーティン」も初めて。少しずつなじむのを待って

次に、幼稚園生活は、毎日ルーティンが続く初めての経験にもなります。毎朝必ず同じ服を着て、同じ準備をして、同じ時間に、同じルートを歩いて目的地に向かう。大人の社会では当たり前なことでも、やっと昼夜の区別がついて、昼間にお昼寝1回で過ごせるようになってきた3歳前後の子どもたちにとっては、自分の身体のペースを周囲に合わせなければならなくなる大きなチャレンジ。おそらく今はまだ「いくぞ」「間に合わせるぞ」という気持ちにまではなれないかもしれません。それに、3歳くらいだと、まだまだ記憶を留めておく脳の働きも未発達です。昨日のこと、一昨日のことを憶えていて、今日改善する、というのも難しいんですね。毎日少しずつ経験を積んで、記憶の層が厚くなっていくことで、ルーティンにも慣れてきます。「そうだった、登園の時は急いだ方がいいんだった」と気づくようになるまで、やさしく声かけして見守ってあげたいですね。

降園時に寄り道をすれば、運動の機会に

お母さんは体力の面も気にされていましたね。そうそう、お子さんにとっては、体力的にも今がチャレンジのとき。起きているだけではなく、登園降園も徒歩、日中はいろいろなアクティビティ、となると、体力は必須です。もしこれまで「歩かせてこなかったなあ」と思うところがあるようならば、降園の際に回り道をしてみたり、お母さんも一緒に寄り道をして遊んでみてはどうでしょうか。帰り道を2倍の長さにすれば、通園の運動量は1.5倍です。週に1回の運動教室に行くよりも、ずっと楽に、そしてお子さんの興味に沿って、運動量を増やすことができます。自分の家の周りの地理をよく知ることって、自分の中の地図を広げるいい機会にもなります。それに、3年後に小学生になったときに、必ず役に立ちますよ。

幼稚園に入って、周りの子が気になるのはお子さんだけではなくお母さんも同じ。我が子が集団に入ったときにどのような様子なのか、ドキドキしますよね。そんな時はぜひ、保育士さんにも相談してみてください。登園時に歩くのがゆっくりなんですけど、園内ではどうですか?困っている様子はありませんか?と、お迎えの時にでも聞いてみてください。意外と活発に動いていたりすることも、あるかもしれません。

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ライター / 得原 藍

理学療法士。大学卒業後、会社員を経て理学療法士の資格を取得。病院勤務を経てバイオメカニクス(生体力学)の分野で修士号を取得。これまでの知識や経験を生かし、現在は運動指導者の育成、大学の非常勤講師などを務める。また、子育て支援団体との協働で運動発達に関する相談を受けたり、外あそび活動などを行っている。6歳男児の母。