みなさんは、毎日の子育てを楽しんでいますか。喜びを感じるひとときもあれば、ふと「こんな時、どうしたらいいの?」「これって、このやり方でいいの?」と、迷いが出てくることもあるのではないでしょうか。運動発達の専門家である理学療法士・得原藍さんによる、楽しみながら子どもの育ちをうながす親子の関わり方のコツを教わる連載です。
<目次>
1.急に泣き出す子ども。どう対応したらいい?
2.子どもの感情表現を育む、関わり方のヒント
3.「いやいや期」は、言葉と人間関係が大きく育つとき
4.言葉にならない気持ちの表現
5.まずは落ち着くまで見守って
6.気持ちを表現する言葉を育てていくコツ
急に泣き出す子ども。どう対応したらいい?
藍さんこんにちは!
3歳の息子のことについて相談させてください。
成長につれて、ふとしたことで急に泣き出したり、怒り出したりすることが増えてきています。たとえば、公園で友達と仲良く遊んでいると思ったら大きな声がして、近くに行ってみると息子は既に顔を真っ赤にして泣いている、周りの友達はぽかんとしている、というような感じです。落ち着いてから話を聞いてみるのですが、「忘れた」と言ったり、「いいの!」と言ったりで、どうもはっきりしたことが分かりません。本人が言ってこなければそっとしておいていいのか、またはもっと上手に聞き出すべきなのか、どう対応したらいいか悩んでいます。また、このまますぐに怒ったり泣いたりする性格になってしまうと、友達にも受け入れられなくなりそうで不安です。
子どもって、こんなふうによく分からないことで感情的になるものですか?また、その場合、親はどう関わったらいいでしょうか。
子どもの感情表現を育む、関わり方のヒント
こんにちは、ご質問ありがとうございます。3歳のお子さんと公園で楽しく遊ぶ毎日、たくさん動くようになって新しい世界を満喫している頃ですね。突然泣き出してしまうことがあるとのこと。泣くようなことが起きた様子はなかったのに……と心配になったのですね。お子さんは「忘れた」「いいの!」など、自分の意見をはっきり言えるようなので、日頃からご家族のなかで安心して生活できているのだなあ、と思いました。
今日は、子どもの感情と言葉について、少し一緒に考えてみたいと思います。親御さんの関わり方のヒントにもなると思います。
「いやいや期」は、言葉と人間関係が大きく育つとき
世間一般では、2歳前後の年齢のことを「いやいや期」と呼んだりしますね。2歳頃になると、少しずつ言葉が出始めて、移動も早くなり、日常生活の中で自分でできることが飛躍的に増えていきます。それまでは目の前の小さなことでいろいろ行動を試すような遊びをしていたのが、急にダイナミックに行動するようになるので、大人はその変化に驚きます。親に意思を伝えることもできるようになるので、「やりたい!」「いやだ!」など、大人としては急に「言うことを聞かなくなった」と感じられることも多いでしょう。けれど、それは大人の視点であって、子どもとしては「できるような気がすることは全部自分でやりたい」のです。言うことを聞かないのではなく、これまでは自分の思いを伝える術がなかったのです。彼らにとっては、やっとこの世界を生きていくための言葉と身体を手に入れた!という時期なのですね。ここからの成長は驚くほど速いです。親は、どんどん自分の手から離れていく子どもの背中を見守るしかなくなっていきます。
ご質問の内容のように、子ども同士で遊ぶようになってくると、そんな彼らの行動には摩擦も生まれるようになってきます。それまでは、大人と子どもの関係の中で「わかってくれる大人」が自分の気持ちを理解して対応をしてくれていたのに、急に「それぞれが独立独歩」の子どもたちの輪ができ始めるのです。彼らは、独立独歩である上に、個性豊かです。流暢に話す子もいれば、まだ言葉が拙い子もいます。ジャンプで台から飛び降りる子もいれば、まだ両足でジャンプができない子もいるでしょう。積極的で何事もチャレンジする子もいれば、慎重でしっかり観察してから物事に取り組む子もいると思います。それでも、3歳くらいになると子ども同士がお互いに興味を持って積極的に関係性を紡ごうとするようになるのです。社会を作って生きてきた人間らしい育ちですね。とっても愛おしい時期です。
言葉にならない気持ちの表現
さて、お子さんが泣いてしまうことがよくある、とのこと。きっといろいろと新しい社会の中で試行錯誤しているのでしょうね。仲良く遊べる時間もあれば、自分の意図を押し通したいときもある。泣いてしまうときには、言葉にならない気持ちがあったのでしょう。大人のように、たくさん言葉を持っていて、気持ちに合う言葉を出せるわけではないですから、今持っている自分の表現手段で、気持ちを外に出したのだと思います。「悲しい」とか「寂しい」とか言えるはず!と思うかもしれませんが、友達と何かをしているその咄嗟に、自分の気持ちを相手に伝わるように言葉にするということは難しいのですよね。まだまだ、落ち着いて、安心して、相手が聞いてくれているときに「伝えたいから伝えよう」と言葉を試行錯誤することができる、そのくらいの言語能力なのです。特に、気持ちを表現する言葉は、その気持ちになったときでないと学べないので、学ぶチャンスも少ないのです。想像の中の誰かの気持ちを自分に置き換えて言葉にしたり、行動できるようになるのは、もう少し大きくなってからなんですね。
そんな言葉の黎明期を生きているお子さんなので、親御さんや周囲の大人のみなさんにも、できることはたくさんあります。まず、今回のケースのように、その瞬間に現場に居合わせなかったけれど気づいたら泣いていた、という場合を考えてみましょう。
まずは落ち着くまで見守って
まず、その場で泣いてしまうことは、落ち着くまで見守ってあげてください。そのときに「どうしたの?何があったの?」と聞いても、言葉にならなくて泣いているのですから言葉にできなくて当然です。まずは黙って背中をさすって、落ち着くまで待ってあげてください。何も言わなくても、慰めてもらってるということは伝わっています(相談者の親御さんは、そうされていましたね。素晴らしいですね!)。落ち着いたら「何か泣きたいことがあったんだね」と、状況をそのまま言葉にしてあげてください。そして「なにを悲しいと思ったのか、教えてくれる?」と聞いてみましょう。そこでもしお子さん自身に、言葉にできる気持ちがあれば、きっと口から出てくるでしょう。相談をくださった親御さんのお子さんのように、もしかしたら「もういいの」と言うかもしれません。それは、本当に「もう終わった」ということなので、それ以上掘り下げようと思っても難しいです。「そうか、じゃあまたどう思ったのか聞かせてね。」と、いつでも話は聞くよ、という姿勢でいてあげましょう。
気持ちを表現する言葉を育てていくコツ
日頃の付き合い方にも、気持ちを表現する言葉を育てていくコツがあります。生活の中で、気持ちが揺らぐ場面があったとき、例えばゴツンとどこかに頭をぶつけてしまったとき、「わー!痛かったね!痛かったね!」と反射的に大きな声を出してしまうことがあるのですが、一呼吸置いてから「頭ぶつけちゃったね。痛かったかな。」と聞いてみてあげてください。そこで「痛かった。」「痛くなかった。」という返事を促してあげるわけですね。その返事が「うん。」でもいいのです。お子さんは、自分に起きたことでどんな気持ちが生まれたのかを振り返って、言葉と繋げて考えることになります。ここで「大丈夫?」と聞くと「大丈夫。」ということになってしまうので、気持ちはさておいて大丈夫、という会話になってしまいます。(大丈夫、って便利な言葉ですね。)
あ、気持ちが動いたな、と感じられる瞬間が、生活の中ではたくさんあると思います。食事のときに「味はどうだったかなー。」と聞いてみる。朝、窓を開けて「どうかなー、寒いかなー?」と一緒に確認してみる。ふと気づいたときに、お子さんがなにを感じているか、聞いてみてください。「ねえ、これどう思う?」なんていうまるで大人同士のような質問も、子どもは大好きですよ。
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