片方の手足だけを使うクセ:理学療法士が伝える!楽しくすくすく育つコツVol.27

みなさんは、毎日の子育てを楽しんでいますか。喜びを感じるひとときもあれば、ふと「こんな時、どうしたらいいの?」「これって、このやり方でいいの?」と、迷いが出てくることもあるのではないでしょうか。運動発達の専門家である理学療法士・得原藍さんによる、楽しみながら子どもの育ちをうながす親子の関わり方のコツを教わる連載です。

<目次>
1. ずり這いのとき、左足ばかり使っています
2. ずり這いのときだけならば心配しすぎずに
3. 両手両足を使う環境をつくる
4. 大人は手出ししすぎず、見守ることも必要

ずり這いのとき、左足ばかり使っています

得原さんこんにちは!生後8ヶ月の子どもの親です。
6ヶ月頃からずり這いを始めているのですが、最近、ずり這いをするときに左足ばかりを使っていることに気がつきました。片方だけ使うというのはよくあることなのでしょうか。また、そのままにしていて機能が偏ったりしないでしょうか。

ずり這いのときだけならば心配しすぎずに

こんにちは。ご質問をお寄せいただいてありがとうございます。生後8ヶ月、ずり這い歴2ヶ月のお子さんについてのご相談ですね。2ヶ月もずり這いを楽しんでいるとなると、今や家中どこでも探検し放題ですね。自由に動けるようになるって、楽しいことですよね。
ご質問は、ずり這いのときに左足ばかり使うことについて。つまり、右足を使わないことが心配なのですね。移動以外の様子はどうでしょうか。寝返りをするとき、仰向けやうつ伏せで遊んでいるとき、右足を観察してみてください。もし万が一、どんな時も全く動かない、あるいは完全に伸びたままだったり、完全に曲がったままだったりする場合には、まずは医師に相談しましょう。
もしも、ずり這いのときにだけ右足を使わない、ということであれば、それはよくあることです。大人に利き手や利き足があるように、使いやすいから使っているのでしょう。今の段階では特に問題ありません。でも、ここからハイハイに繋がっていく過程で、両手両足を使って移動することもおぼえてもらいたいなあと思います。もしかしたら「足りないもの」があるかもしれないので、以下の3つの項目を確認してみてください。

◻︎普段お子さんが移動するのは主に自宅内である
◻︎自宅はバリアフリー、または段差のない環境である
◻︎赤ちゃんが泣いたり叫んだりしたとき、親御さんが近寄ることが多い

どうでしょう、当てはまる項目はあるでしょうか。実はそれぞれが、赤ちゃんがハイハイで片足しか使わなくてもいい状況を作り出している要因になる可能性があります。ひとつずつ、考えていってみましょう。

まずはひとつめです。お子さんは自宅内での移動がメインでしょうか。はじめてずり這いができるようになってから、ずっと家の中を移動しているとなると、きっと家の中での移動には片足の動きで十分なのでしょう。何がどこにあるかもわかっている、不意に近寄ってきたり、避けたりしなければならない状況も生まれない、となると、とにかく移動できればそれで十分、なのかもしれません。児童館や子育てひろば、芝生の広い公園などのように、広い場所、赤ちゃんのこれまでの経験からは予測不可能なことが起こる場所、にぜひ連れ出してあげてください。いつもと違う環境に置かれると、赤ちゃんも色々なことを考えます。はじめての場所では最初はなかなか動かないかもしれませんが、それも考えている証拠。ゆっくり滞在して、自分で動きだすまで見守ってあげられるとさらにいいですね。

両手両足を使う環境をつくる

次に、自宅内の環境を考えてみましょう。大人もずり這いを真似てみるとわかるのですが、実はずりずりお腹を床に滑らせるには、バリアフリーの床が必要です。昔の住宅は敷居があり、段差があり、畳がありましたね。簡単に滑ることのできない環境だと、家の中を動き回るのにもお尻を持ち上げてハイハイの姿勢をとることができます。ハイハイでは、片足だけを使う、というわけにはいきませんから、自然と両手両足を使って移動するようになります。もし、自宅に段差がなければ、座布団のような障害物を床に置いてみたり、お母さん・お父さんの足を乗り越えるような遊びをしてみたり、段ボールの中を潜り抜けるような遊びを試してみたり、障害物を作るような工夫をしてみましょう。もし休日に階段のある実家に行く、などの機会があれば、階段も絶好の練習場所になります。ハイハイでなければできないことを想像して、いろいろ試してみてくださいね。

大人は手出ししすぎず、見守ることも必要

最後に、大人との関係性を考えてみましょう。ずり這いで移動ができるようになっても、少し段差があったり、障害物があったりすると、赤ちゃんも困って大きな声を出したり、ときには泣き出すこともあるかもしれません。そのときに、毎回必ず親御さんが近寄って助けてあげている場合があります。一見、とても優しい行動に見えるのですが、赤ちゃんは「自分で乗り越えるよりも呼んだほうが早い」と理解していることもあります。移動できるようになったら、そこからは「自分で乗り越えてごらん」と声をかけてあげるようにしてください。絶対に手を貸してはいけない、ということではありません。よく赤ちゃんを観察して、もうちょっとでできそうだな、と思ったら、言葉で気持ちを後押ししてあげる、ということです。よく冗談で「お母さん、タクシーにならないようにしてくださいね。」という話をすることがあるのですが、手助けの塩梅をみることができるようになると、子どもは自ら動き出します。ここから先、運動や言葉、社会性の発達など、様々な場面で言えることなので、ぜひ、心のどこかに「塩梅」という言葉を置いておいてください。

どうでしょう、チェックリストには当てはまる項目はあったでしょうか。赤ちゃんは体験から様々なことを学んでいきます。それには、環境や親御さんの関わりのような外的要因も影響します。移動ができるようになったらぜひ様々な環境で移動の動きをさせてあげてください。また、助けすぎない塩梅を、探してみてくださいね。

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ライター / 得原 藍

理学療法士。大学卒業後、会社員を経て理学療法士の資格を取得。病院勤務を経てバイオメカニクス(生体力学)の分野で修士号を取得。これまでの知識や経験を生かし、現在は運動指導者の育成、大学の非常勤講師などを務める。また、子育て支援団体との協働で運動発達に関する相談を受けたり、外あそび活動などを行っている。6歳男児の母。