なかなかハイハイを始めません|理学療法士が伝える!楽しくすくすく育つコツVol.22

みなさんは、毎日の子育てを楽しんでいますか。喜びを感じるひとときもあれば、ふと「こんな時、どうしたらいいの?」「これって、このやり方でいいの?」と、迷いが出てくることもあるのではないでしょうか。運動発達の専門家である理学療法士・得原藍さんによる、楽しみながら子どもの育ちをうながす親子の関わり方のコツを教わる連載です。

ずっとずり這いを続けています

得原さんこんにちは!もうすぐ生後9ヶ月の男の子の母です。

息子は生後5ヶ月半ぐらいからずり這いを始めており、「成長が早いかな?」と思っていたのですが、そこからなかなかハイハイに行きません。ずり這いの仕方はとても器用で、手をつかってボートを漕ぐような感じで家の中をスイスイと動き回っています。

本人を見ている限り特に不便ではなさそうなので、ハイハイの必然性というかモチベーションが上がらないのかも、とも思いますが、ハイハイをしないままでも心配ないでしょうか。また、無理せずハイハイを促す仕掛けや工夫があれば知りたいです。

ハイハイしなくても問題ない?

こんにちは。ご質問を寄せていただいてありがとうございます。ずり這いで動き始めたお子さん、きっと移動を楽しんでいるのではないでしょうか。自分の力で目的地に向かうことができるということは、動く生き物である人間にとって根源的な喜びなのでしょう。ほんの半年前までは首だって自由に動かせなかったのに、赤ちゃんの成長ってとっても早いですよね。

さて、ご質問は、お子さんがずり這いからハイハイになかなか移行しない、ということでしたね。特に不便を感じていない、ということは、ご自宅の構造はバリアフリーでしょうか。ずり這いは、お腹を床につけた状態で動くので、段差や障害物がある場所では不便なんです。段差や、滑りづらい床、敷居、階段などがあると、ずり這いでは移動できないですよね。このままずり這いを続けて、つかまり立ちに移行して歩行を始めても、歩けるようになるか?という観点で言えば特に問題はありません。ただ、ハイハイをすることのメリットもあるので、今回はハイハイがなぜ良いか?についてお話ししたいと思います。

ずり這いとハイハイはどちらも移動を目的としていますね。では、移動は、いつから始まっているのでしょうか。

移動のしかたを覚える第一歩は「寝返り」

赤ちゃんは生まれた直後から五感を使って周囲の様子をよく観察しているものですが、首が据わって頭部を自由に動かせるようになると、自分から少し離れた場所にあるものにも興味を持つようになります。興味を持てば、近づきたい、と思う気持ちも生まれます。そうすると、自分の身体をなんとかコントロールして動かそう、という意思が生まれてきます。そして、ちょうどその頃に、身体の神経も成熟してきて、全身をぐるりと捻ったりすることができるようになるんですね。そうすると、寝返りができるようになってきます。この寝返りが、移動の第一歩です。寝返りをしてうつ伏せになると、腕や脚で地面を押すことができるようになるので、床の上で動くことができるようになります。これがずり這いのはじまりです。(ただ、どのように押せば前に動けるようになるのか、しばらく試行錯誤するので、はじめての寝返りから前に進めるようになるまでには数ヶ月かかるのが普通です。)

ずり這いとハイハイはどこが違う?

では、ずり這いとハイハイの違いはなんでしょうか。
まず、ずり這いとハイハイの身体の使い方を比べてみましょう。大人でも試すことができるので、ぜひ床でずり這いとハイハイの姿勢をとってみてください。まずは動かずに、ずり這いの姿勢で下半身を床につけた状態と、ハイハイの姿勢で掌と膝を地面についた四つ這いの姿勢を比べてみましょう。ずり這いの姿勢では、体重のほとんどをお腹から下の接地面で支えていることがわかると思います。それに比べて、ハイハイでは、腕で身体を支える力が必要ですね。体重を腕の力で受け止めるには、掌を使って地面をしっかり掴むように力を入れる必要がありますし、肘や肩も体重の重さに抵抗してコントロールしなければなりません。また、動くときの脚の様子を見ると、ずり這いではカエルのような脚の使い方になるので体重を支えることはないのですが、ハイハイになると身体の前面で膝と股関節を曲げ伸ばしすることになり、体重を支えながら移動のための動作をすることになります。つまり、ハイハイのほうがずり這いよりも、体重を支える力のぶん、筋力を必要とする動きなんですね。

人間を含め、動物は元来省エネで動こうとするので、必要がなければできるだけ筋力を使わないように生活します。それは赤ちゃんも一緒です。なので、ずり這いで不自由なく移動できれば、そのまま床面での移動はずり這いのままであることもあります。そして、そのままつかまり立ちをおぼえて、歩くようになるでしょう。(実はずり這いやハイハイよりも、エネルギーの観点から言えば歩くことのほうがずっと省エネです。)

ハイハイで身体を支える力を鍛える

では、ハイハイすることのメリットはなんでしょうか。
それは、ハイハイをすることで、身体を支える力の土台が作られることです。実は、人間は、ハイハイの時期を過ぎてしまうと腕で体重を支えることなくそのまま一生生活することもできます。けれども、姿勢をまっすぐに保ったり、腕で大きな動作をする際には、腕で体重を支えるときに使う肩周りの筋や、さらに肩の動きを支える体幹の筋が重要な役割を果たします。歩き出してすぐの時期には、安定した歩行を身につけるために赤ちゃんはたくさん転びますが、そのときにパッと手を出して倒れ込んだ身体を支えるのにも、ハイハイのときに培った身体の動きや筋力が大切になってくるのです。大人も、姿勢が悪いときには背中の筋を鍛えるように言われますね。背中の筋をしっかり使うには、腕を使って重りを引きつけるようなトレーニングや、まさに四つ這いの姿勢でバランスを取るようなトレーニングをするでしょう。赤ちゃんは、立って歩くという動作の準備段階としてハイハイをすることで、その後の安定した直立歩行を獲得する近道を探っているのです。何も教えなくてもハイハイをして身体を鍛えてくれるなら、そのタイミングを逃す理由はないですね。ハイハイできそうなときに、たっぷりしてもらいたいものです。

ただ、冒頭でお話ししたように、ハイハイしなかったからといって、そのことが一生を左右するわけではありません。ずり這いから直接、つかまり立ちをして、歩くようになることもあります。そのときには、腕を使って体重を支えるような遊びをたくさん取り入れてあげることで、ハイハイで培われるはずだった身体の機能を獲得することができます。大きなものを乗り越えたり、もう少し成長したら雲梯やジャングルジムや棒登り、馬跳びなど、ダイナミックな遊びが腕を使って体重を支えるような運動の例になります。筋力も、後から取り戻せます。もしお子さんがハイハイせずに歩き出したことを心配している方がいたら、そこは大丈夫。安心してくださいね。代わりにたっぷり身体を動かす遊びをさせてあげましょう。

ずり這いからハイハイに移行するための工夫

ご質問のような9ヶ月頃のまだ歩かない赤ちゃんでしたら、ずり這いからハイハイに移行するような工夫もできます。この時期にしっかりハイハイをしてくれると歩き始めてからの安定感が違ってきますから、余裕があればトライしてみてくださいね。

①家の中に小さな障害物をつくる
まず、赤ちゃんが移動する環境に変化を持たせてみましょう。移動しながら遊んでいるときに、座布団やクッション、高さの低いダンボール箱(15センチくらい、飲料缶など重いものが入っていると安定して良いです)を使って障害物を作ります。また、お母さんやお父さんが移動する先に脚を伸ばして、そこを乗り越えてもらってもいいでしょう。段ボールで作ったトンネルなども、ずり這いではうまく中を移動できないので、ハイハイのきっかけになるかもしれません。いずれにしても、障害物を乗り越えるときにはお腹を床につけておくわけにいきませんから、「ハイハイしなければ興味のあるものにたどり着けない」という環境がひとつのきっかけになってハイハイを覚えることがあります。

②おもちゃはケースにまとめる
また、家の中のおもちゃを、衣装ケースなどにまとめてみる、という工夫もできます。身体を持ち上げて中に手を入れないとお気に入りのおもちゃが手に入らない、となれば、ずり這いの姿勢ではいられなくなります。半透明の衣装ケースなどにおもちゃを片付けて、赤ちゃん自身がそこへ近寄っておもちゃを探せるようにしてみましょう。遊んだらここに戻すのよ、と、見せてあげることで、大人が片付ける行為に興味を持つきっかけにもなるでしょう。

③芝生や砂浜の上で過ごす
屋外なら、何か特別なものを用意しなくても、たとえば芝生の公園や砂浜などで過ごすだけでハイハイに繋がることがあります。フローリングの床の上とは違ってすべりませんから、ずり這いでは移動ができないのです。はじめて外の地面に下ろす際には、まずはレジャーシートなどを用意して、赤ちゃん自らレジャーシートの外に興味を持って移動するまで待ってあげてくださいね。まずは、自分で移動したいという気持ちを持つことが大切です。はじめての芝生体験は、きっと驚きの連続でしょう。慣れるまでに時間がかかりますが、慣れてくれば広い外での移動は心身ともに格別に楽しいと思います。(外でのハイハイ遊びには、プレイウェア、お砂場着、と呼ばれるつなぎがあると、服の上から着用することで汚れを防ぐことができて便利なのでおすすめです。もちろん、汚れて良い服があればそれで十分ですが。)

今回はハイハイについてお話ししましたが、ハイハイ以外の身体の動きも、目の前の赤ちゃんが「どんなことに興味を持って動くのか」をよく観察することで、その子の得意なこと、動きやすい環境などに気づくことができます。同じ月齢でも、好きなこと、できること、やろうとすることは赤ちゃんそれぞれ。身体も心も、それぞれができるだけのびのびできる環境を整えてあげたいですね。

◎infomation


MotherRingサポーターとは
助産師・ドゥーラ・保育士・ベビーシッター・治療家・リラクゼーション施術者・運動指導者といった、産前産後の家庭へのケアサービスのプロフェッショナルを、MotherRingサポーターと呼んでいます。
様々なケアを提供されている方にMotherRingサポーターとしてご登録いただき、広報活動をお手伝いすることで、産前産後のご家庭が必要なケアを受けられる社会を目指しています。

MotherRingサポーターページへの掲載
MotherRingサポーターのみなさまのサービス内容や受付条件などを、MotherRingサポーターページに掲載いただくことが可能です。

motherringサポーターページの内容・ご利用方法(PDF)

「Webサイトがほしいけど、自分でつくるのは大変……」
「日々のサポートで手いっぱいで、広報活動まで手が回らない……」
といった方のお手伝いをします。
また、産前産後のご家庭にとっても、様々なMotherRingサポーターのみなさまの情報をまとめて見ることができるため、比較検討しやすくなっています。

ご登録までの流れ
①まずは、オンライン説明会にお申し込みください。
オンライン説明会お申し込みフォーム

②MotherRing事務局より、申込書等の必要書類をメールにて送付します。
必要事項を記載し、お申し込みください。


③オンライン面談を実施します。
詳細なサポート内容はもちろん、サポートへの思いなど、お聞かせください。


④登録、MotherRingサポーターページにあなたの情報が掲載されます。
サポート内容をまとめた文章や画像などの掲載情報をご提出いただき、MotherRing事務局であなたの専用Webページを作成し、掲載いたします。

MotherRingは、助産師・ドゥーラ・保育士・ベビーシッター・治療家・リラクゼーション施術者・運動指導者はもちろん、様々な産前産後の家庭へのケアを提供されているみなさまのお役に立ちたいと考えています。上記以外の職種の方も、ぜひ一度お問い合わせください。

ライター / 得原 藍

理学療法士。大学卒業後、会社員を経て理学療法士の資格を取得。病院勤務を経てバイオメカニクス(生体力学)の分野で修士号を取得。これまでの知識や経験を生かし、現在は運動指導者の育成、大学の非常勤講師などを務める。また、子育て支援団体との協働で運動発達に関する相談を受けたり、外あそび活動などを行っている。6歳男児の母。