赤ちゃんの寝ぐずりを考える:理学療法士が伝える!楽しくすくすく育つコツVol.26

みなさんは、毎日の子育てを楽しんでいますか。喜びを感じるひとときもあれば、ふと「こんな時、どうしたらいいの?」「これって、このやり方でいいの?」と、迷いが出てくることもあるのではないでしょうか。運動発達の専門家である理学療法士・得原藍さんによる、楽しみながら子どもの育ちをうながす親子の関わり方のコツを教わる連載です。

入眠前にぐずってしまいなかなか寝付けない赤ちゃん

得原さんこんにちは。3ヶ月になる男の子の母です。
赤ちゃんがなかなか寝付けず、眠そうなのにぐずってしまうのが気になっています。お昼寝のときも、夜も、眠そうな様子をみてベッドに連れていくのですが、結局寝付けず、ずっとぐずぐずと泣いています。授乳をすると泣き止んでくれるのですが、もうそろそろいいかな、とおっぱいを離すとまたぐずぐずが始まってしまいます。気がついたら母子ともに寝落ちしていることも少なくありません。気がつくと一日中おっぱいを出しっぱなしのような生活で、さすがにまずいのでは、と思っています。いまの状況を抜け出すヒントをいただければありがたいです。

生後1年は浅い眠り(ノンレム睡眠)になりがち

こんにちは。質問を寄せていただいてありがとうございます。生後3ヶ月のお子さんを育てているとのこと、3ヶ月くらいになると赤ちゃんの身体も少ししっかりしてきて、抱き心地も変わってきていることでしょう。赤ちゃんの生後1年間の成長って、本当に早くて驚きますね。

今回のお悩みは、寝つきの悪さ、ということでした。授乳をすると寝ついてくれる、ということで、お母さんと赤ちゃんとの間には、少なくともひとつは問題解決方法が見つかっているということですね。これはとってもすごいことなんですよ。「何をやっても無理」という「0(ゼロ)」の状態から、「授乳をすれば大丈夫」の「1(イチ)」まで、大きなステップを踏み出しています。そのことに自信を持ってくださいね。

さて、寝ぐずりについてですが、睡眠時間と同様に寝ぐずりもかなり個人差があって、赤ちゃんそれぞれで様子が違うようです。また、生後1年くらいは、睡眠中も「REM睡眠(レム睡眠)」という浅い眠りの状態にある時間が長いこともわかっています。まだ脳が定期的にまとめて眠るような発達を遂げていないのですね。赤ちゃんはそもそも眠りづらく起きやすい生き物なのだ、ということです。それに、大人も、スッと眠れる人もいれば、本を読まないと眠れない人、真っ暗闇でないと眠れない人などさまざまです。脳や身体の成長に伴って少しずつ自分の寝入りかたの特徴に対応できるようになっていくのが人間です。少なくとも、このままおっぱいがなければ眠れない大人になったりはしませんので安心してください。

赤ちゃんの「ぐずり」が必要な理由

唐突ですが、動物としての人間の側面に目を向けて考えてみましょう。たくさんの哺乳類の中で、生まれてすぐに歩ける動物と、そうでない動物がいると思います。馬や羊などの動物は、生まれ落ちて数時間もすれば歩くことができますね。一方で、犬や猫などは生まれてすぐは歩くことができず、数日間は親が世話をしなければなりません。人間に至っては、1年近く歩くことができませんね。この違いは、どこから生まれるのでしょう。

馬や羊は、元々広い原野の中で出産し、子育てをします。生まれてすぐに歩けない子どもは、肉食動物に狙われてしまうでしょう。一方で、犬や猫は、人間の側に暮らしたり、野生でも群れを作ったり、自分の住処を確保したりして、そこで子どもを一定期間育てます。つまり、子どもを守る環境を維持することで、歩けない未熟な子どもを守っているのですね。

人間の子どもは、犬や猫よりもさらに未熟な状態で生まれてきます。他の動物よりも脳が大きく発達しているので、分娩するには未熟な状態で生まれるしかないのです。これ以上お腹の中で育ってしまっては、お母さんの骨盤底から生まれることができなくなってしまいます。その代わりに、人には社会があり、動物としてかなり未熟な状態で生まれてくる子どもの世話を代わる代わるすることで、子どもを守る生活を営んできました。子どものほうも、歩くこともできない、自分でお母さんの乳房を探してたどり着くこともできない状況で産み落とされるので、生きるためには世話を求めなければなりません。自分で自分の身体が自由に動かせるように発達するまでの間、赤ちゃんがぐずるのは本能的に大切なことなのです。
この先、成長する過程で少しずつ、夜眠るときに泣かなくてもお母さんがいなくなったりしないことを理解してぐずらなくても眠れるようになっていきます。ただ、それにはもう少し、赤ちゃんの身体も、世界を理解する認知能力も発達していく必要があります。これは、周囲の力で早めることはできません。ゆっくり伴走してあげたいですね。

ぜひ試してみてほしい、入眠をうながす工夫4つ

では、いまできることは何もないのか、というと、そんなこともありません。いくつか、考えられる工夫を紹介しますね。どれも、今日やれば明日から楽になる、ということではないですが、続けることで入眠のリズムを作りやすくなっていくと思います。ぜひ試してみてください。

①入眠前の流れを習慣化する

ひとつめは、入眠前の流れを毎日繰り返すことです。たとえば、毎日決まった時間にお風呂に入り、湯冷めする前に薄暗い部屋へ連れていき、授乳して、静かに眠る前の1時間を過ごす、など、少し時間をかけて入眠前のスローダウンの時間を作ります。目的は、これから眠るのだ、というメッセージを体験を通して伝えることです。毎日繰り返し続けることで、眠る、ということの心の準備を促すことにもつながります。楽しく過ごした夕方の時間からメリハリをつけて、静かな時間を作ってみましょう。

②日中、赤ちゃんが身動きできる環境を整える

ふたつめは、日中、赤ちゃんが自分自身の身体の動きをたっぷり試せるような環境を整えてあげることです。赤ちゃんは、自分の好奇心の向くままに身体を動かそうとします。3ヶ月だと、そろそろ首も据わってくる頃でしょうか。仰向けで床に寝かせてあげると、両手でものを掴んだりするようになってきます。たっぷりと、自分で自分の身体が自由になる時間をとってあげましょう。
抱っこ紐やバウンサーの中だと、実は赤ちゃんは縮こまっていることしかできません。体重を道具に預けてしまうと力を使わずに過ごすことができてしまうので、床で過ごす運動量とは全く違ってくるのです。
身体をたっぷり動かすことは、心身の発達につながります。身体が疲れることで入眠も少し楽になるでしょう。そこは大人と同じですね。

③コミュニケーションの工夫で「眠るよ」がわかるように

みっつめは、周囲の人とのコミュニケーションです。赤ちゃんが「あー」と声を出したら、反応してあげましょう。着替えるときや、授乳の際には、「これからお着替えするよ」「おっぱい/ミルクの時間だよ」と声をかけて、今からしようとすることと、体験を一致させてください。眠るときにも「これからベッドに行くよ」と声をかけてみましょう。毎日同じ言葉を聞きながら、同じ体験をしていくことで、言葉の理解が進みます。その先には、眠るよ、の意味がわかる、という成長が待っています。
また、子育てひろばや公園など、人が集まる場所にも連れて行ってあげましょう。お母さんと一対一で過ごす日中よりも、お母さんが誰かとコミュニケーションをしている様子を見たり、いろんな人に話しかけられたりすることで、言葉の理解がさらに進んでいきます。ひろばでは床ですごし、公園ではレジャーシートの上で過ごすなど、身体のことも忘れずに。

④赤ちゃんが自分で扱える道具を試す

よっつめは、赤ちゃんが自分で自分をコントロールできる道具を試してみる、です。例えば、おしゃぶり。この時期に短期間使うくらいなら、歯並びの心配もありません。お口のもの寂しさで安心できずにぐずっているとしたら、おしゃぶりがあることで少し寝入りが良くなるかもしれません。眠ると口から落ちますが、また夜中にぐずったときに、洗ったおしゃぶりをお口に含ませてみてください。うまくいけば、眠りにつきやすくなるかもしれません。ただ、道具との相性は赤ちゃんそれぞれ。うまくいかないこともあります。
少し大きくなると、お気に入りのタオルやぬいぐるみなど「それがあれば落ち着ける」というものを子どもは自分自身で見つけたりもします。何か見つかれば、ラッキーですね。

寝かしつけのできる大人を増やす

そして最後に、この先のことも踏まえて、寝かしつけを他の人に頼む手段を考えてみましょう。もちろん、一番慣れているお母さんに寝かしつけてもらったほうが赤ちゃんも安心できますから、他の人に代わったら、お母さんの何倍も時間がかかるでしょう。けれども、ここから何年も、完全にお母さんのタスクとして背負うよりは、小さい頃からお母さん以外の人と一緒に眠る機会を持つことが「急がば回れ」の対策でもあります。ぜひお父さんやご家族と、相談してみてください。家族が難しければ、お昼寝のときに産後ドゥーラさんやベビーシッターの方にお願いしてもいいのです。人間はそもそも集団で生活をする生き物ですから、赤ちゃんにとってもいい経験になるでしょう。

生後3ヶ月、まずはここまで立派に子育てしてきた自分を褒めてあげてください。赤ちゃんが産まれたら「お母さん」という生き物に変身できるわけではありません。皆少しずつ、赤ちゃんとの生活の中で、お母さんになっていくのです。最初こそたくさん手助けを求めて、周りに頼ってくださいね。

ライター / 得原 藍

理学療法士。大学卒業後、会社員を経て理学療法士の資格を取得。病院勤務を経てバイオメカニクス(生体力学)の分野で修士号を取得。これまでの知識や経験を生かし、現在は運動指導者の育成、大学の非常勤講師などを務める。また、子育て支援団体との協働で運動発達に関する相談を受けたり、外あそび活動などを行っている。6歳男児の母。