抱っこ紐やベビーカーの上手な使いかた|理学療法士が伝える!楽しくすくすく育つコツvol.10

みなさんは、毎日の子育てを楽しんでいますか。喜びを感じるひとときもあれば、ふと「こんな時、どうしたらいいの?」「これって、このやり方でいいの?」と、迷いが出てくることもあるのではないでしょうか。運動発達の専門家である理学療法士・得原藍さんによる、楽しみながら子どもの育ちをうながす親子の関わり方のコツを教わる連載です。

生後すぐからOK!抱っこ紐とベビーカーを上手に使おう

大人と赤ちゃんが一緒に移動するために便利な抱っこ紐(ベビーキャリア)やベビーカー。みなさんはどのように使っていますか。今回は身体の視点から、これら赤ちゃんの移動のための道具の適切な使いかたについて考えてみたいと思います。

頭が揺れないような工夫を
生後すぐから首が据わるまでの時期は、首が動かないようにしっかり支えてあげなければなりません。赤ちゃんの運動発達の最初のこの段階では、目線の動きから頭部の動きを習得していくことになります。首がぐらぐらしていると、それだけで頭部の動きに余計な力が入ってしまうことになります。この頃はまだ、頭部を支える骨も筋も働きが不十分なのです。もし横抱きの抱っこ紐をお持ちでしたら、そちらを使いましょう。無理に縦に抱いて頭部をぐらぐらさせることは決してトレーニングになりませんから、ご注意ください。身体のサイズによっては、市販の抱っこ紐ではゆるくて中で動いてしまうこともあると思います。その場合はタオルなどを使って、抱っこ紐の中で赤ちゃんが揺れすぎないように調節してもいいでしょう。

「首が据わる」ってどんな状態?
首を支えなくてOKになる目安は、赤ちゃんが自由自在に自分の首を動かせるようになることです。うつ伏せでも、抱っこでも、頭部がぐらぐらせずに、自分の興味のある方向に自由に頭を動かせるようになったら、首が据わったといえるでしょう。
抱っこ紐では、首を支えることができるグッズが備えられていれば、必ず使いましょう。首を支えるものと、首との間に隙間を作らないようにしましょう。頭部はお母さん・お父さんの胸の上部(鎖骨あたり)に寄りかかるような状態で保持されるといいでしょう。ベビーカーでは、まだ背もたれの傾斜を使わず寝ている姿勢を保てるようにしましょう。不意の揺れなどで頭がぐらぐらしないようにしてください。

首が据わってからの「抱っこ紐」「ベビーカー」はここに注意

動き出す時期に気をつけたいこと
首が据わるということは、次の運動の準備が整ったということです。次の運動とは、仰向けで両手を合わせたり、足を持ち上げて遊んだり、それを繰り返す中で寝返りへとつながっていくような動きです。

これらの動きは、実は抱っこ紐の中ではなかなか行うことができません。抱っこ紐を使わなければならないときには、少なくとも30分に1回くらいは、抱っこ紐から解放してあげましょう。手足を根本から優しく動かしてあげるようにできるといいですね。大人でも、30分以上全く同じ姿勢で固定されているのは不快なものです。赤ちゃんはいつも置かれている状態を「当たり前」として育っていきますが、身体は動かすものですから、固定されている状態を当たり前とはしたくないところです。

ベビーカーで気をつけなければならないのは、そろそろ寝返りをする時期だ、ということです。ゆるいとすり抜けてしまうかもしれませんから、ベルトをしっかりと固定して、身体に合わせてピッタリに調整するようにしましょう。急激に赤ちゃんの身体が大きくなる時期には、気づかずにきつく締めすぎていることもあります。食い込むような状態になっていないかも確認しましょう。

夏だからこそ気をつけたい体温調節のこと

夏の抱っこ紐は暑さに注意
抱っこ紐は、大人と密着するので、赤ちゃんの体温は想像よりもずっと高くなっている可能性があります。もしも、赤ちゃんの前髪が汗でぺっとりしていたら、その状態では暑すぎるというサインです。抱っこ紐から降ろして、大人と一緒に休憩してください。最近は赤ちゃんの背中に入れる保冷剤も販売されていますが、一旦体温で温まった保冷剤は、かえって熱を蓄積してしまいます。こまめに温度チェックをして、冷たくなくなったら外しましょう。

ベビーカーは一見抱っこ紐よりも涼しい状態にあると思いがちですが、実は輻射熱といって地面のアスファルトからの照り返しによる熱に注意が必要です。大人よりも地面に近いので、大人が快適でも赤ちゃんには暑い、という状況も考えられます。この場合も、もし汗をたくさんかいているようなら、一旦日陰等でお休みしたいですね。

水分摂取も積極的に
いずれにしても、汗をかきすぎると脱水になりやすくなります。外出する際には水分摂取に気をつけましょう。また、汗をかいた状態で冷房の効いた電車やバスに乗ると、気化熱でたくさんの熱を奪われることになります。汗で服が濡れてしまった場合には、タオルで水分を拭き取り、あれば新しい服に着替えましょう。
そして、親子ともに大切なのが水分補給です。身体は、水分が足りなくなると、排泄量が極端に減ってきます。身体の中に水分を残しておくための機能が働くわけです。まずはこまめな水分摂取をしてください。排尿後のトオムツの水がうすい黄色でしたら問題ないですが濃い黄色になっていたら脱水が疑われます。まずはしっかり水分補給をしましょう。

「抱っこ紐」「ベビーカー」はなぜあるの?

そもそも、移動のための道具はなぜ必要なのでしょうか。人間以外に、赤ちゃんを移動させるために道具を使う動物はいないと思います。答はふたつあるのではないか、とわたしは考えています。

ひとつは、赤ちゃんが移動できない未熟な身体で生まれてくるから、です。動物の中には、生まれて数分〜数時間で歩けるようになる動物も少なくありません。歩けなくても、ニホンザルのように親の身体に自らしがみついたり、カンガルーのように親の身体にある袋に収まって生活するなど、身体だけでなんとかできる能力を他の動物の赤ちゃんは備えて生まれてきます。人間の赤ちゃんは、生まれてから数ヶ月の間、いわゆる反射で手を握ることはできても、意志の伴う十分な力の大きさと持続力は維持できませんから、移動の際に親がなにかしらの方法で力を貸す必要があるわけです。

もうひとつは、人間の社会生活のなかで安全に子どもを移動させるため、です。もしも、わたしたちの社会が移動を必要とせず、赤ちゃんを連れ出さずに済む環境(食べ物を届けてもらい、働きに出る必要がなく、運動発達に必要な広い屋内・広場などが備えられ、社会性を育てるための社交場もすぐ近くにある)にあれば、赤ちゃんの移動のための道具は要りません。数分抱っこしていられる大人の体力さえあれば良い、ということになるでしょう。けれども、わたしたちの日常生活には素手の抱っこでは対応しきれない状況がたくさん存在します。だから、移動用の道具を使うのです。

忘れないでおきたいのは、私たちは「必要だから道具を使うのだ」という点です。赤ちゃんが産まれて、必ず買わなければならない道具というものは存在しません。必要なときに、必要な分だけ、道具の力を借りましょう。必要は人によって違うものですから、ひとつの答があるわけではありません。家庭によって、地域によって、必要なものは変わってきていいのです。その中で、赤ちゃんの発達を邪魔しないような道具の使い方ができるといいですね。

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ライター / 得原 藍

理学療法士。大学卒業後、会社員を経て理学療法士の資格を取得。病院勤務を経てバイオメカニクス(生体力学)の分野で修士号を取得。これまでの知識や経験を生かし、現在は運動指導者の育成、大学の非常勤講師などを務める。また、子育て支援団体との協働で運動発達に関する相談を受けたり、外あそび活動などを行っている。6歳男児の母。