指しゃぶり、放っておいても大丈夫?:理学療法士が伝える!楽しくすくすく育つコツVol.33

みなさんは、毎日の子育てを楽しんでいますか。喜びを感じるひとときもあれば、ふと「こんな時、どうしたらいいの?」「これって、このやり方でいいの?」と、迷いが出てくることもあるのではないでしょうか。運動発達の専門家である理学療法士・得原藍さんによる、楽しみながら子どもの育ちをうながす親子の関わり方のコツを教わる連載です。

目次
・子どもの指しゃぶり。放っておいて大丈夫?
・まず、歯のようすを確認してみて
・4歳すぎても続くようなら

子どもの指しゃぶり。放っておいて大丈夫?

得原さんこんにちは!ものすごくシンプルな質問なのですが、指しゃぶりって放っておいても大丈夫ですか?子どもはいま1歳なのですが、親指に吸いダコができるほど、毎日指しゃぶりをしています。わたしの親には「大人になってまで指をしゃぶっている子はいないから」と言われるのですが、「指しゃぶりをするのは寂しいから」と聞くこともあるので少し気がかりです。指しゃぶりを続けてしまうことの弊害はありますか?何歳までに止めなかったら病院に行った方がいい、などの目安がもしあれば教えていただけるとありがたいです。

まず、歯のようすを確認してみて

こんにちは!ご質問ありがとうございます。1歳のお子さんが指しゃぶりをされているんですね。吸いだこができるほどとは、親御さんもちょっと気になりますよね。まずは「指しゃぶり」そのものについて考えてみましょう。

お子さんは1歳とのこと、お口の歯のようすはどうですか。また、授乳や離乳食の進みはどうでしょうか。実は0歳から1歳にかけては、口に何でも入れてみる時期でもあります。探索行動のひとつでもあると同時に、生後3ヶ月ころから積極的に口にものを入れることで、口の周りの筋肉が育っていって、その後の食事や会話に繋がってきますし、唾液腺が刺激されて唾液が出やすくなることとも関係しています。さらに、舌を動かす練習にもなっていたりもするんです。また、よく言われることではありますが、歯が生えてくる頃、特に口で噛んだり吸ったり舐めたりという行為が増えたりすることもあります。なので、指しゃぶりもその一環と捉える上では、問題がない、ということになってきます。

ところで、指しゃぶりはどんなときにしているでしょう。眠いときでしょうか。お腹が空いたときでしょうか。なにか身体の欲求と繋がっているとしたら、指をしゃぶることで口や指に感覚を伝えて、満足の感覚を得ようとしているのかもしれません。よく、スヌーピーのライナスの毛布に例えられたりもするのですが、自分で自分の気持ちを満足させる行為のことを「セルフ・スージング」といいます。大人も、この音楽を聞くと落ち着く、とか、これをちょっと食べると安心する、など人それぞれ自分と付き合う方法を持っていると思います。赤ちゃんたちも、生活の中でその方法を自分で見つける子たちがいるんですね。こういった親指しゃぶりや指しゃぶりは、おしゃぶりの使用とともに、研究者の間では「非栄養性おしゃぶり」とも呼ばれています。この行為自体は、眠いときに指をしゃぶることで睡眠を安定させたりするなどの効果もあって、それ自体がすぐにやめさせなければならないというものでもありません。

4歳すぎても続く場合

では、どのくらい長期になってくると問題になるのでしょうか。文献を調べてみたところ、4歳以上の親指しゃぶりは、歯並びが悪くなる不正咬合を引き起こす可能性があるという報告がありました。けれど、ほとんどの場合、子どもは2歳から4歳の間に自然に親指をしゃぶらなくなるため、乳幼児期の親指しゃぶりの影響はごくわずかのようです。もしも親指しゃぶりが長期的な習慣となって、4歳以降も続くようであれば、歯の問題やその他の問題のリスクが高まる可能性があるようなので、今後の様子を注意してみていきたいですね。

質問をくださった方のお子さんはまだ小さいですが、この記事を読んでいる方の中には、親指しゃぶりをしているお子さんがもうすぐ4歳、というかたもいるかもしれません。では、ちょっと大きくなったお子さんの指しゃぶりをスムースにやめさせるにはどうしたらよいでしょうか。いくつか、子どもの心理的な発達をふまえて考えてみましょう。こちらも、発達心理の文献を元にまとめてみました。

・忍耐強く話しかけ、待つ:親指しゃぶりは気持ちの快適と繋がっているので、やめるのには時間がかかります。叱ったり罰を与えたりすることは、不安やストレスにつながって癖を悪化させる可能性があるので避けたほうが良いようです。

・代替手段を提供する:お気に入りのぬいぐるみ、毛布など、お子さんが自分自身を慰める他の方法を提供することで、親指しゃぶりから意識を遠ざけることができます。いつもの指しゃぶりのタイミングで代替手段を提供してみて、新しい快適さを睡眠に結びつけるように導いてみましょう。とはいえ、時間がかかるので、毎日少しずつ、ですね。

・ほめて伸ばす:2歳を超える頃になってくると、言葉の理解もぐんと進んできます。親指をしゃぶっていないことを褒めてあげると、その行動を強化することができると考えられています。北風より太陽、ということですね。

指しゃぶりは、基本的には正常で無害な行動ですが、あまりに長く続くと歯並びなどに影響することがあることを知っておくとよさそうです。赤ちゃんの成長と発達を見守りながら、2歳・3歳になって指しゃぶりが続くようであれば、少しずつ時間をかけて対策していくことを考えられるといいですね。また、乳児期から続くおしゃぶりではなく、2−3歳の子が突然指しゃぶりを頻繁にするようになったら、もしかしたら何か不安があっての行動かもしれません。下のお子さんが生まれたり、お母さんお父さんとの生活環境が変わるなど、心理的にちょっとストレスがあるかなあ、と思ったら、そのときにはたっぷり親御さんに甘えることができる時間を作ってみてあげてくださいね。

<参考資料>
・​​Nasir A, Nasir L. Counseling on Early Childhood Concerns: Sleep Issues, Thumb-Sucking, Picky Eating, School Readiness, and Oral Health. Am Fam Physician. 2015 Aug 15;92(4):274-8.
・Borrie FR, Bearn DR, Innes NP, Iheozor-Ejiofor Z. Interventions for the cessation of non-nutritive sucking habits in children. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Mar 31;2015(3):CD008694.

ライター / 得原 藍

理学療法士。大学卒業後、会社員を経て理学療法士の資格を取得。病院勤務を経てバイオメカニクス(生体力学)の分野で修士号を取得。これまでの知識や経験を生かし、現在は運動指導者の育成、大学の非常勤講師などを務める。また、子育て支援団体との協働で運動発達に関する相談を受けたり、外あそび活動などを行っている。6歳男児の母。