いきいき子育てには、知識と経験による支えが必要!|手と目で人を護る、看護の「心」で寄り添いたい! vol.1

産前産後ケアに役立つ情報や、注目すべき事象をお届けしているマザーリングジャーナル。今回のインタビューにご登場いただくのは、一般社団法人「国際ナーシングドゥーラ協会」代表の渡邉玲子さんです。看護師として聖路加国際病院で勤務後、子育て支援ボランティア、ファミリーサポート、産後ドゥーラなどの経験を経て、2016年に協会を設立、「ナーシングドゥーラ」という新しい職業を確立しました。その誕生秘話をはじめ活動内容などをお聞きします。聞き手はマザーリングジャーナル編集長の界外亜由美です。

寄り添いの心こそ「ナーシングドゥーラ」への第一歩

界外: 読者の皆さまの中には「ナーシングドゥーラ」という名称を初めて耳にする方もいらっしゃると思います。ドゥーラとは、産前産後の家事や育児全般をサポートする専門職。欧米ではよく知られた存在ですが、日本でもやっと認知度が高まってきた感があります。マザーリングジャーナルでは、以前「産後ドゥーラ」のお話も伺っています(産後ドゥーラのお話はこちらから)。
では「ナーシングドゥーラ」とは何か? ご説明いただきましょう。

渡邉玲子さん(以後、渡邉さん): ナースは「看護師」、ドゥーラは「寄り添う人」という意味の言葉です。この2つを合わせて作ったのが「ナーシングドゥーラ」という民間資格です。ホームページなどには「寄り添い・つなぐ・看護職」と謳っています。
ここでそもそも看護師とは? というお話をちょっとしたいのですが…界外さん、普段看護師ってどこで会いますか?

界外: 病院です、よね?

渡邉さん: はい。厚生労働省で定められた看護師とは「傷病者若しくはじょく婦に対する療養上の世話または診療上の補助を行うことを業とする者」を指します。「診療上の補助」は、病院で医師の指示の下で働くことで、いわゆる皆さんがイメージする看護師ですね。でも、実はご自宅に伺って療養上のお世話をするのも看護師の仕事なのです。

界外: つまり看護師の働く場所は、本来病院に限られるものではないのですね。

渡邉さん: そうなのです。そして看護という字をよく見ると、手と目で護る(まもる)と書きます。しかも、「守る」ではなく、助ける・大事に思うという意味で使う「護る」なのです。手と目で人を護る看護職として、かつ、産前産後の女性に寄り添う「ドゥーラ」として、必要な情報や人と人をつなぐ役目を担ってほしいと考え、協会立ち上げの際に、「寄り添い・つなぐ・看護職 ナーシングドゥーラ」と命名しました。

界外: 改めてお聞きすると、その名称にも強い思いが込められているのを感じます。

渡邉さん: 「ナーシングドゥーラ」というと、看護師資格のある人がドゥーラとして産後のケアをするものと解釈されがちです。それは間違いないのですが、まずは目の前の人を助けたい、支えたいというマインドがあることが第一なのかなと。そして何といっても、看護の気持ちが生かせる、とてもやりがいのある仕事だと感じています。

界外: 渡邉さんは、看護師、保健師の資格を持ち、「産後ドゥーラ」としても働いたりと、産前産後ケアのご経験は長いですよね。

渡邉さん: そうですね、子育てボランティア、保健師としての地域母子保健活動、ファミリーサポートなど、振り返ると色々やってきました。

ナーシングドゥーラの仕事は、赤ちゃんのお世話はもちろん、料理や掃除などの家事サポート、また、乳腺炎など産後に起きやすい身体のトラブル相談や、傾聴、上のお子さんのケアなど、産後不安定になりやすいママを心身両面からサポートします。産後ドゥーラと共通している部分もあります。

ただ、看護師としてならお伝えできることが、産後ドゥーラの立場では言えないことも多く、そのジレンマも協会を立ち上げるひとつのきっかけとなりました。看護師って例えばの話、病棟で入院患者さんのところに行くと、様子に変化がないかどうか、肌の色や点滴の状況など、瞬時に目配りしています。なので、ナーシングドゥーラは、赤ちゃん、ママ、上のお子さんなど、ご家族の体調への気配りは看護職の目線できめ細やかに行います。ですが、必要な情報を必要な時にお伝えすることはしても、決して知識を押し付けたり、診断や指示はしません。あくまでお気持ちを丁寧に伺い、賛同し、一緒に調べて、より良い意思決定ができるよう誘導する、つまり、寄り添い支えるのです。

界外: 「寄り添い・つなぐ・看護職」の中に「教える」などの言葉がないのは、あえてなのですね。

渡邉さん: はい。一番尊重すべきはママやパパご自身の考え方や育児法、もちろん必要な知識や情報は惜しみなくお伝えして、より良い方向につなぐサポートを! と心がけています。そうして自立の準備ができたら、私たちナーシングドゥーラは自然にフェイドアウトする。そういう立ち位置で、ママとご家族に接していければ理想的だと考えます。

界外: 職業、仕事という観点からすると、継続してずっと依頼があるのがいいのでしょうけれど、引き際まで視野に入れているとは…。ナーシングドゥーラのあるべき姿というのを考え抜いた結果なのだと思います。

幼児体験と思春期のもがきから生まれた寄り添いの気持ち

渡邉さん: 私事になりますが、私の母はフルタイム勤務での仕事をしながら、兄と姉を育て私を産みました。ところが生まれて間もなく私が生死の境をさまようほど重い肺炎にかかり、仕事をやめて育児に専念することに。一緒に植物を育てたり、絵をかいたり…。

界外: お母様の愛情にしっかり包まれて育ったわけですね。

渡邉さん: 母のミシンを踏む音の傍らでままごとをしていたのを、今でも思い出します。また、すぐ近くに親戚が住んでいて、たくさんの人に囲まれ育ちました。子どもたちが缶蹴りや縄とびをする傍らで、大人も時に仲間に加わり縄跳びに挑戦したり…にぎやかでしたね。
ところが、私が小学校に上がるタイミングで母が復職、父の単身赴任、さらに親戚一家の引っ越しと、次々と人がいなくなり、小学校を卒業するころには、兄と姉もそれぞれが受験の時期に。愛犬まで交通事故で亡くしてしまったときはショックで…。私の思春期、中学生生活は喪失感だらけのスタートでした。

界外: それまでがにぎやかだった分、落差が大きかったんですね。

渡邉さん: はい。そんな中、今思えば自分の居場所探しでもあったのか、ふとしたことから暴走族の子たちとよく話をするようになりまして。

界外: 暴走族⁈ ですか?

渡邉さん: 今では想像できないかもしれませんが、当時私が住んでいた下北沢には地元では有名な暴走族があり、別のグループと縄張り争いするなど幅を利かせていたんです。
シンナーに依存してしまい、やめたいのにやめられない…予期せぬ妊娠をしてしまった…、自分と同じ中学生が抱えるには大きすぎる問題に、話を聞くだけの時もあり、相談に乗ることもあり。ちなみに私の父も母も堅い仕事で、身内が言うのもなんですが、兄も姉も優等生タイプでした。

界外: 家族の中で1人だけ、ちょっと雰囲気が違うぞ、と。

渡邉さん: はた目には不良グループと遊んでいるように見えたかもしれません。両親が帰宅するまでの時間、時には両親が帰宅してからも、2階の窓から顔を出して、外にいる友達の話を聞くこともありました。

界外: ご両親や周りの人は?

渡邉さん: 両親は心配していたと思います。私自身は意外に冷静で、自分を頼って話をしに来ている目の前の人を何とかしてあげたい! それだけでしたし、なぜかその子たちは私を仲間に引き込むようなことはしませんでした。「おみや」と呼ばれていましたが「おみやはおみやのままで、ただ話をきいてくれるだけでいいんだよ」と。
中学校の先生からも「あなたは流されてしまう人じゃないから」という感じで。

界外: 周囲の人たちからは、信頼されていたんですね。

渡邉さん: いいえそんな。ただ、そこで自分が人の役に立てる喜びを知りました。ずっと相談に乗っていた友人が「やっとシンナーをやめることができた。今まで話を聞いてくれてありがとう」と、それを伝えるために来てくれた時は、安堵したと同時に本当にうれしかったです。

界外: そのころから親身になって人に寄り添っていたのですね。

渡邉さん: そういう意識はなくて…。ただ、私にも何かできることがある! 小さな成果かもしれませんが、その積み重ねが自信と喜びをもたらしてくれました。
その後高校生になって進路を選択するときに、正直、勉強では兄や姉にはかなわないとわかっていたし、自分にできることは何だろうと。大学案内にあった、聖路加国際病院の日野原重明先生の「寄り添い人」というキーワードにひっかかりを感じ、もしかしたら看護職かも、と思ったんです。

子育てに疲弊する前に知ってほしい! 自然に学べる機会の大切さ

界外: そこで、看護大学に入学されたのですね。

渡邉さん: はい。入学してみたら、まわりは病棟勤務のナースを目指す人ばかりで、いわゆる「診療上の補助」をやりたい人が大半だったのです。その中で訪問看護の存在を知り、私はこっちかも、と。当時まだ訪問看護の先駆けだった柳原病院などで、アルバイトやボランティアをしました。聖路加国際病院にも訪問看護の担当科はあったので、卒業後はひとまず病院で看護師として働き始めました。
そうしたらなんと就職してまもなく、わずか1年間の間に3回も入院するなど、体調の不調に見舞われてしまって。短期間に何度も入院したので、看護師なのに看護される側のプロ⁈ と言ってもいいくらい!

界外: 患者の気持ちがわかる看護師さん、心強いですよ!

渡邉さん: 看護師としてもナーシングドゥーラとしても役立つ経験だったと、今なら思えます。
その後、夫と出会いまして、縁があって結婚。第1子を妊娠後、ひどいつわりで体重が激減し、またもや入院を余儀なくされたため、退職を決意しました。就職して3年でした。すぐに2人目を授かり、結果的にですが3人の子供に恵まれました。

界外: 3人の子育て生活に突入するわけですね

渡邉さん: はい。夫は知識はないけれど弟や親戚の子達の面倒を見た経験がありました。私のほうは看護師、保健師としての知識はあっても、子育て経験は初めて、という夫婦です。それぞれがお互いの足りない部分を補い、時にぶつかり合いながらも協力して子育てをしました。そこでわかったのは、夫婦2人っきりの子育てには限界がある! という事。そして子育ては経験者と一緒に行うことで自然に身につけるものだということです。ナーシングドゥーラにつながる産後ケアに興味を持ち始めたのもこのころです。

子どもがいる生活は楽しいという気持ちがお互いずっとありましたね。夫と共にまずは地域の子育てコミュニティにどっぷり浸かってみて、ベビーカーに子どもを乗せ公園デビューもしました。公園での会話は、ママが1人で孤独な子育てをするよりは気晴らしになりますが、本当に必要な知識や情報は入ってきません。かといってメンタル面のサポートになるかというとそれも微妙…何となくこれは変だなと思いながらのスタートでした。

転機が訪れたのは夫の1年間のスウェーデン赴任の時でした。まだ幼い3人の子を連れて一緒に行ったのです。1994年、一番下の子がまだ生後3か月でした。たった一年なら日本で待てばという声もありましたが、私の父が単身赴任をした時、子ども心にさみしい思いをしたので、だから家族みんなで一緒に行くぞと。
とは言え、夫も私も言葉がわからず、いつもポーチに英語とスウェーデン語両方の辞書を入れて行動しました。夫も余裕ゼロ状態の中、夫婦喧嘩もたくさんしましたが、何といっても子育て環境の充実ぶりに、私は救われました。

界外: 子育て環境はそんなに日本と違いましたか?

渡邉さん: スウェーデンでは今で言う子育て広場みたいなものが身近にあり、相談したり、カウンセリングを受けることが誰でもできました。そしてここが特に違うな、と感じたのですが、子育ての悩みはプロ、すなわち社会福祉機関や子育てサービスなどにつないでくれるのです。育ってきた環境も子育てへの考え方も違う、色々な国の人が集まる国だからこその仕組みだと思いました。子育ては夫婦2人でするものではなく、サポートは必須、という考えがしっかり根付いていました。

界外: サポートは必須! だから必要な相手や情報につないでくれるんですね。

渡邉さん: はい。こういう相談は誰のところにとか、別の場合はどこどこへ、とすぐに専門家につないでくれるので、回り道もせず、本当に助かりました。

スウェーデンで知り合ったある方は、ご主人が育休を取得している間、プロに住み込みで家事と育児のサポートを依頼したと話してくれました。子育ての知識も経験もない新米のパパママにとって、知識と経験に裏付けられた実際が生活の中で見聞きできる機会にもなったと聞きました。

界外: 今でこそ日本でも夫婦で育児に取り組むことは当たり前になってきていますが、スウェーデンでは25年も前に! こういったことを現地で目の当たりにし、体感されたというのは大きいですね。

渡邉さん: また、ある保育士さんの話ですが、たとえ保育のプロといえども自分の子育ては初めての経験。家事や育児などのサポートはもちろん、プロの客観的なアドバイスやカウンセリングを受けていたそうです。それが当たり前な環境なんですね。保育のプロでさえそうですから、誰の支えもなく何とかしようと考える人は、スウェーデンにはほとんどいませんでした。日本人的な感覚で、夫婦 2人で何とか子育てをと考えていた私には目からうろこでした。

界外: いまだに子育てにおけるママの孤立が問題にされる日本とは雲泥の差が…。

渡邉さん: 産後は知識と経験豊かな専門家による寄り添いサポートが必要だと思います! そんな社会では、心に余裕を持ってずっとラクな気持ちで子育てに取り組むことができるのです。今の私があるのもあの時のおかげ、本当に大変だったけれど、がんばって行ってよかったと思います。

日本でも身近な地域の中で、カウンセリングもサポートも十分に受けることができたら、と思い、「国際ナーシングドゥーラ協会」を立ち上げるきっかけにつながりました。

※次回公開は1月21日(金)予定。看護師をナーシングドゥーラに養成するカリキュラムはどんな内容なのでしょう? そこにナーシングドゥーラが現在注目を集める理由が隠されているようです。お楽しみに!

渡邉玲子(わたなべ れいこ)さん
人に親身に寄り添い、その笑顔を見ることに喜びを感じた10代の経験から、訪問看護を志す。聖路加看護大学卒業後、同院「公衆衛生看護部」に就職。その後結婚出産を経て、3人の子連れで北欧に渡欧。先進的な子育てサービスを目の当たりにし、帰国後は産後ケアに携わる。看護師ならではの寄り添い方、新しい働き方を構想し、2016年「国際ナーシングドゥーラ協会」を設立。理事・代表として現在に至る。現役「ナーシングドゥーラ」である一方、後進の育成にも力を注いでいる。
国際ナーシングドゥーラ協会  https://www.ns-doula.com

インタビュアー 界外亜由美(かいげ あゆみ)
産前産後の女性とサポーターをつなぐ『MotherRing』主宰。やさしさが循環する社会づくりを目指して活動している。「言葉」で伝える制作会社『mugichocolate』代表取締役。

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ライター / 咲 奈

出版社で雑誌・書籍の編集を経て、いろいろなもの、コトとつながり、いくつになってもわくわくしていたいとの思いからライターを志す。ヨガなどのボディワークが日課。