ご家庭それぞれの育児法を尊重、未来につなぐサポートが私たちの使命!|手と目で人を護る、看護の「心」で寄り添いたい! vol.2

看護師ならではの寄り添いの気持ちと、医療現場で培ってきた知識と経験を生かしたナーシングドゥーラの仕事ぶりは、行政からも仕事の依頼が入るなど信頼を置かれています。また、地道に実績を積んできた結果が実り、2016年の協会設立から現在までに、南は沖縄から北は岩手まで、日本全国に活動範囲が広がりつつあります。その秘密はナーシングドゥーラ養成講座のカリキュラムにも隠されているよう。
インタビュー第2回目は、「国際ナーシングドゥーラ協会」代表の渡邉玲子さんに、養成講座のカリキュラム、そして卒業生の開業状況や活動について、お話を伺いました。

ママや家族が子育てを楽しむためのお手伝い! 看護師ならではのケアを

界外: 前回のお話の中で、既に25年も前のスウェーデンで、子育てサポートの充実ぶりを目の当たりにされたという渡邉さん。3人の子育てなど、さまざまな経験を経てたどり着いたのが、「産後の生活は1人でできるものではなく、経験者と一緒に楽しみながら行うもの」ということでしたね。
渡邉玲子さん(以後、渡邉さん): はい。子どもが生まれ、これから新しい家族を作っていこうとする新米ママとパパには、当然サポートがなければ、お互いの心身の変化を尊重しつつ赤ちゃんとの関わりを楽しむ事は難しいであろうと。ナーシングドゥーラは赤ちゃんとの暮らしが楽しくなるようサポートをする存在でありたいと思っています。
私たちは基本はもちろん押さえていますし、情報提供もするけれど、教えることはあえてしません。こうすべきですよ、といった指示もしません。それぞれのご家庭の育児はそのご家庭ならではのものですので、そこは尊重すべきであると考えています。

界外: 外部から、これが正解というような押し付けはしないということですね?

渡邉さん: もちろんです。それに看護師といっても、外科の経験しかない人もいれば、皮膚科しか知らない人もいます。また自分の子育ては経験していても、そのご家庭にとって何が正解なのか、そう簡単に答えを出せるものではないからです。

界外: では、どんな風に寄り添い、サポートするのでしょうか?

渡邉さん: ナーシングドゥーラが家事や育児をサポートしながら、当然気づくことがあるのです。
例えば赤ちゃんの皮膚の色が、いつもと少し違うなと気づいたら、
「お顔色がちょっと悪いようですが、どうされましたか?」とお聞きします。ママから何らかのお返事がきたとして、
「それはご心配ですね。ご主人は何かおっしゃっていましたか?」と聞いて、パパはどう考えているのかを引き出します。
さらに、「それを聞いてどう思われましたか?」と、ママご自身の気持ちを確認した上で、私たちにお手伝いできることがあるか聞きます。そうすると、お母さんの方から「〜してほしい」と答えが出てくるのです。もし答えが出てこなくても、
「こういう時、こんな例もありましたけど」
「別の例では、こんな風にされてましたけど」と、あくまで事例を伝える形でお話しするようにしています。

界外: 「肌の色が悪いときは、~しましょう」とか「肌の色が悪いのは~だから、私は~をします」と断定的なことは言わないんですね。

渡邉さん: はい、養成講座で受講生にもナーシングドゥーラは、まずはママとしっかり向き合いましょう、と伝えています。お話を聞く、相談に乗る、その寄り添いの中で答えを導き出すお手伝いをします。知識や一般論をそのお宅に当てはめるのではなく、個を見る、ママを見る、と。

界外: お話を伺っていると、知識は当然持ってはいるけれど、それ以前に、人に寄り添う気持ち、看護マインドとでもいうのでしょうか、それが一番大切なのですね。
そして、体調をみるときには、こんな風に肌の色をみるものなんだと。雑談の中で、実は具体的な情報の提供もしているのですね。

渡邉さん: はい。しかもその知識は、今度はママの力に、そして家族の力になっていくんです。

界外: なるほど! 知識がつながっていく…。

渡邉さん: 料理をする時の話を例にとると、冷蔵庫を開けた際など、
「タンパク質は○○○がありますね。緑黄色野菜は○○○がありますね。確か貧血がおありでしたから、ほうれん草を使った料理を一品加えましょうか?」とご提案します。また、
「お通じはどうですか?」などとお聞きして、実は便秘が…というお返事だったら 「それなら食物繊維をとるといいんですよ。根菜はお好きですか? もしできたら次回までにご家族にもやしを買ってきてもらえるといいかもしれませんね」とか。そうすると今度はご家族も買い物の時に、食物繊維が便秘には効果的なんだな、とインプットできます。
養成講座の講義ではもちろん、普段から「こういう場面では、こういう風に言おうね」と、確認し合っています。

界外: ちょっとした会話の中に、実はそうやって具体例を挙げて知識をお伝えしている…。

渡邉さん: そうなんです。つなぐという意味では知識だけじゃなく、家族もです。旦那様はもちろん、おじいちゃん、おばあちゃんも同じで、例えばおじいさまが上のお子さんをお迎えに 行って、ご自宅まで連れてきてくれたら、
「おじいさま、下のお名前は? ○○○さん、お宅のお嬢様の子育て、いかがですか?」とお聞きしちゃうんです。すると
「いや~うちの娘、がんばってますよ」とか。そうするとママはもうそこで涙ですよね。

界外: 普段思っていても、口に出して言われることはめったにないでしょうし、ほめてもらう機会はなかなかないですから。そういうチャンスをさりげなく作る…すてきですね。

渡邉さん: はい! ママに何でも気兼ねなく相談してもらえるように、信頼関係を作っていきたいと。「渡邉さんに相談してよかった!」と言われたりすると、お役にたてたことを実感できてうれしいですし、やりがいもあります。
そして時期が来たら、私たちは自然にフェイドアウトする、そこまでが役目だと考えます。自立に向けて家族を支える、そこを目標としている点が、ナーシングドゥーラが他の家事・育児サポートと大きく違うところかもしれません。

界外: フェイドアウトの時期をきちんと示せる、これはなかなかできないことだと思います。

渡邉さん: 私のお客様は、契約時間を全部使いきる前のラスト2時間を残して終了するケースが多いです。「あと2時間残っていますが、どうされますか?」とお聞きすると、「そのままとっておいてください、もし何かあった時にお願いしますから」と。現在はシステムが少し変わり、3時間からでないと利用できないのですが、つまりは1回分を残したまま終了するという事です。

界外: 万が一の時の為に、その2時間を残しておく…心の保険みたいなものですね。

渡邉さん: 期限は1年間なのですが、その間タイムツリーというアプリで管理してつながります。1年たって連絡がないと、ああ、元気でやっていらっしゃるんだと…。

界外: つまりその2時間は、残った2時間ではなく、使い切った2時間といえそうですね。

ほめられる事の少ない看護職だからこそ、受講生のいい点を積極的にほめる

界外: 看護師と言えど、属していた科も違えば経験も異なるというお話でしたが、その方たちをナーシングドゥーラという新しい職業に養成するカリキュラムはどんな内容なのか、具体的にお聞きかせいただけますか?

渡邉さん: ナーシングドゥーラの資格には、「認定ナーシングドゥーラ®️Pro」、「認定ナーシングドゥーラ®️」、「ナーシングドゥーラ®️ジュニア」の3つがあります。

界外: その違いは何ですか?

渡邉さん: カリキュラムの違いです。開業するためには「Pro」を修了する必要があります。
内容は、大きく言うと座学と実習の2つに分かれます。座学はすべてオンラインで行います。テーマは、「ナーシングドゥーラ概論」、「対象の理解」、「寄り添いつなぐ支援の実際」、「コミュニケーション学」などです。この座学を修了すると、ジュニアの資格が取得できます。

界外: 「ナーシングドゥーラ®️ジュニア」の受講生はどんな方が多いですか?

渡邉さん: まずは基本を勉強してみたいという人ですね。主に現役の看護師が受講されます。
実習は、①自撮り動画 ②調理実習 ③同行訪問 ④単独訪問の4つがあります。

界外: 自撮り動画は、何を撮影するのですか?

渡邉さん: お客様のご自宅に伺った設定で、ピンポーン♪ とチャイムを鳴らすところから始まって、ドアを開けてご挨拶。お宅に上がって、洗面所をお借りして手を洗うなどの訪問時の一連の流れ、そしてサービスの内容を説明するところまでを撮影します。

界外: 訪問先のお宅は自分で見つけてくるのですか?

渡邉さん: いえ、お客様がいるという設定でのエアー撮影です。撮影後、その動画データを協会に送信してもらいます。例えば、マンションで撮影するなら、この辺にスマホを置くといい、などのアドバイスはもちろんしますし、お手本というか、デモ動画も配布しますから、それを参考にしてもらえば、ちゃんと1人で撮影できます。養成キットには、スマホ用の三脚も同封し、事前にお手元にお届けします。

界外: スマホ用の三脚まで! 準備万端、至れり尽くせりですね。

渡邉さん: 撮影した動画を送ってもらい、後日、今度は講師からアドバイスを交えつつ訪問時のマナーを学びます。例えば、手は前に持って来たほうがいい、バッグはこっち側に持った方がいい、とか。表情はもっとこうしたほうが印象が明るくなるよ、など。この自撮り動画を使った実習によって、皆さん見違えるように応対が上達されます。

界外: 料理実習はどんな感じですか?

渡邉さん: 同様にキッチンに三脚を立てて、スマホをセットし、受講生が調理している様子を管理栄養士である講師が確認し、料理が出来上がり次第、調理や衛生管理方法等についてよかった事を伝えています。そのときは、いい点を見つけて、ほめる方を多めにと心がけています。というものも、自分が褒められることに慣れていないと、人を元気づけたり、褒めることってできないんですよ。看護師って、批判されたり、意見されることの方が多い仕事で、褒められる事は本当に少ないですから。

界外: 看護師さんのお仕事、そうですよね…。でもナーシングドゥーラは、寄り添いつなぐ看護職ですから、ちゃんとママを褒められるようになってほしいという事ですね。

渡邉さん: その通り! だから動画をチェックしながら「あなたのココ、いいですね! ココもいいです」「わあ、コレおいしそう!」「いいよね~、絶対おいしいよね!」とか。

界外: それは自信がつきますね~!

渡邉さん: 自撮り動画という名の訪問実習と調理実習、この2つをこなしていく事で、自信もつきますし、かなり鍛えられます(笑)

界外: それにしても座学はわかりますが、こうした実習もオンラインなのですね。

渡邉さん: はい。オンラインの活用によって、お陰様でこのコロナ禍でも養成講座は変わらず継続できています。

界外: 実習の3つ目、同行訪問は、さすがにオンラインは無理ですね。

渡邉さん: はい、そこはさすがに。でも様々な理由でどうしても無理という時はオンラインでも可能です。撮影同行者1名は手配してもらわなくてはなりませんが、その方が撮影するライブ映像を見ながら行います。

界外: YouTuberの配信を見る感覚ですね。

渡邉さん: 本当にそうです(笑)。実習の最後は単独訪問ですが、これは動画撮影はしません。訪問先の協力者様は受講者自身に探してもらいます。訪問結果をレポートにまとめ、協力者様の感想もいただいて、その両方を提出してもらいます。 ほかには月に一度のオンラインイベントなどがカリキュラムに含まれます。
座学と、自撮り動画、料理実習、イベントまでが「認定ナーシングドゥーラ®️」。それらに加え、同行訪問、単独訪問まで修了すると「認定ナーシングドゥーラ®️Pro」で、「Pro」には起業支援の講座が加わります。

界外: 「認定」と「Pro」の主な受講者はどんな方ですか?
「Pro」を目指しているけれど、今は忙しいなどの理由がある人は、「認定」のカリキュラムまでを受講しています。ですが、実際には「認定」だけで終わる人はほとんどいません。興味がある人は「Pro」まで行っちゃいますね。

界外: これまでに受講された方の人数はどれくらいですか?

渡邉さん: 70人が受講して、その約半数の方々がナーシングドゥーラとして開業されています。

開業後は、それぞれの個性を生かした活躍を!

界外: ナーシングドゥーラを利用する方はどういう方が多いのでしょうか? なんとなくナーシングという言葉から、健康に不安を抱える人が利用するのかしら? と考える方もいると思います。

渡邉さん: 健康上の理由というより、信頼のおける人、知識をきちんと身に着けた人に頼みたい、という方が多いようです。
もう一つは、公的サービス、行政からの紹介です。大きく、この2つからのご利用が多いです。

界外: 行政から依頼が来るという事は、これまでの活動内容が高く評価された結果ですね。

渡邉さん: 実際にご利用になった方からの評判が徐々に広まって、ここにつながっているのだろうと。大変うれしいです。ナーシングドゥーラの養成講座では、病院での看護職の目線とは別に、ご自宅に伺ってお世話をする際に必要なことをしっかりと伝えています。それも実績につながっているのかなと思っています。
また、利用される事情はさまざまなので一概には言えませんが、助けを人に求める、SOSを出すのに抵抗がある、または、人に教えてもらったりお願いごとをするのが苦手という方にとっては、サービスとして利用できるから頼みやすくて気が楽だというお声もあります。

界外: 養成講座を修了された方の約半数が実際に開業されていることも注目に値すると思いますが、日本全国、沖縄から山形まで広範囲にナーシングドゥーラが存在するという点もまたすごいことですね。開業後は、具体的にどのように活動されているのでしょう?

渡邉さん: ナーシングドゥーラも1人ひとり、個性も考え方も違う人間です。病院で勤務していた時は別として、起業したら、自分なりの経営方針でいいと思っています。
例えば、今横浜では、公的サービスからの依頼が増え、その比重が高くなってきていますし、一方でお医者さんや弁護士さんなど、高所得者向けの展開を考えている地域もあります。それは開業した地域の特性や、その人の考え方で違って当然だと思います。実際、協会は認定資格維持のための更新料はいただいてますが、活動内容の管理は行っておりません。そのほうが自己責任が明確になる分、他に合わせることなく展開していけると考えています。

界外: ナーシングドゥーラさんがどんな活動をされているのか、具体的に教えてください。

渡邉さん: 葛飾では、ナーシングドゥーラが産後ドゥーラさんと組んでサポートを始めました。多分日本で初めてだと思います。1つの家庭を支えるのに、1人では無理な場合も多いです。ドゥーラ自身にも家庭があり、他にもさまざまな事情で回らなくなることも起こりえます。2つの団体同士、補い合うだけでなく、お互いの事業を広めていければいいと思っています。。

界外: 各種ドゥーラ資格の垣根を超える試みですね。

渡邉さん: はい。また練馬や横浜では、開業後軌道に乗っている状況なのですが、頻繁に上げていたインスタも上げられないほど忙しくなってしまいまして。今は「ナーシングドゥーラ ジュニア」の人達とチームを組んで、活動しています。

界外: チームサポートで乗り切ったというわけですね。

渡邉さん: 乗り切りつつあるといった方が正しいと思いますが、そうやって、人と一緒にやることでと裾野がぐっと広がっていきます。ジュニアの人達とやるのか、はたまた葛飾のように産後ドゥーラさんのような別の団体と組むのか、それぞれ独自の方法で対応策を見つけて進んでいければと思っています。

界外: なるほど。今後の展開がますます楽しみです。

※次回公開は1月28日(金)予定です。 それぞれの地域で、それぞれの展開をしながら精力的に活動をしているナーシングドゥーラですが、今後の課題は何なのか、また協会がこれから目指していることについてお聞きしていきます。


渡邉玲子(わたなべ れいこ)さん
人に親身に寄り添い、その笑顔を見ることに喜びを感じた10代の経験から、訪問看護を志す。聖路加看護大学卒業後、同院「公衆衛生看護部」に就職。その後結婚出産を経て、3人の子連れで北欧に渡欧。先進的な子育てサービスを目の当たりにし、帰国後は産後ケアに携わる。看護師ならではの寄り添い方、新しい働き方を構想し、2016年「国際ナーシングドゥーラ協会」を設立。理事・代表として現在に至る。現役「ナーシングドゥーラ」である一方、後進の育成にも力を注いでいる。
国際ナーシングドゥーラ協会  https://www.ns-doula.com

インタビュアー 界外亜由美(かいげ あゆみ)
産前産後の女性とサポーターをつなぐ『MotherRing』主宰。やさしさが循環する社会づくりを目指して活動している。「言葉」で伝える制作会社『mugichocolate』代表取締役。

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ライター / 咲 奈

出版社で雑誌・書籍の編集を経て、いろいろなもの、コトとつながり、いくつになってもわくわくしていたいとの思いからライターを志す。ヨガなどのボディワークが日課。