離乳食のスタートと身体に合わせた食形態のアップ|運動発達の専門家、理学療法士が伝える!楽しくすくすく育つコツ vol.2

みなさんは、毎日の子育てを楽しんでいますか。喜びを感じるひとときもあれば、ふと「こんな時、どうしたらいいの?」「これって、このやり方でいいの?」と、迷いが出てくることもあるのではないでしょうか。そこで、運動発達の専門家である理学療法士・得原藍さんから、楽しみながら子どもの育ちをうながす親子の関わり方のコツを教わる連載をスタートします。

-目次-
離乳食のゴールはなんだろう?
離乳食は、身体の構造と機能の成熟を待つためのもの
赤ちゃん自身も食事の練習を始めている
食事の姿勢を保てるようになるまでは支えてあげて
離乳食のステップアップは赤ちゃんのお口の様子を見ながら

離乳食のゴールはなんだろう?

こんにちは!理学療法士の得原藍です。
今回は「離乳食」のお話です。「いつスタートする?」「どんなペースで進める?」「なかなか進まない・・・」と悩みが多い「離乳食」の基本の考え方をお伝えします。

さて、みなさんは、「離乳食」のゴールは何だと思いますか?離乳食の最終的なゴールは、家族みんなと同じメニューを食べられるようになることです。1年間から2年間という時間をかけて、母乳やミルクのような「液体」だけに栄養源を頼る状態から、大人と同じように固形物を中心とした食事からエネルギーを得るようになる、その練習が離乳食です。

では、最初から大人と同じものが食べられない理由はどこにあるのでしょうか。それがわかれば、何を練習していったらいいのかが明確になりますね。

たとえば、生後半年の赤ちゃんが大人と同じ内容のメニューを食べることができない身体の構造上の主な理由には、以下のようなものがあります。

①歯が生えそろっていないので、噛むことが難しい
②消化管の発達が未熟で、消化酵素が足りない
③口や舌の動きが未熟で、うまく食べ物を口の中で移動させて飲み込むことができない
④食事のための姿勢を安定して長時間とることができない

離乳食は、身体の構造と機能の成熟を待つためのもの

4つの理由のうち、①と②は主に赤ちゃんに自然に起こってくる身体の成熟を待つことになります。

①「歯が生えそろっていないので、噛むことが難しい」を考えてみると、たとえば、歯が全く生えていない時期に「とうもろこしの身を芯から齧りとる」ようなことはできませんし、歯茎でのすり潰しで食べられるものにも限界があります。

②「消化管の発達が未熟で、消化酵素が足りない」を考えてみると、消化酵素の分泌が不十分だと、タンパク質や脂肪の消化が間に合わず、お腹を壊してしまいます。糖質中心のお米を柔らかいお粥にして、消化の負担を少なくした状態から離乳食が始まるのはこのためです。

世界の様々な地域で、食べ慣れている炭水化物から離乳食がスタートします。ジャガイモのペーストのこともあれば、オートミールを煮たものが定番の離乳食であることもあります。①と②から考えると、大切なのは、消化の能力と歯の発達に合わせた形態の離乳食を用意するということだと言えるでしょう。

赤ちゃん自身も食事の練習を始めている

赤ちゃんに自然に起こってくる身体の成熟に加えて、赤ちゃんが身体を動かしていく中で少しずつ動きを身につけて上手になっていく、という過程も必要になります。

③「口や舌の動きが未熟で、うまく食べ物を口の中で移動させて飲み込むことができない」について。赤ちゃんの口や舌の動きは、母乳やミルクを飲んでいるときと、ご飯を食べるときとでは、全く違います。母乳やミルクを飲むときには口は開いたままですが、ご飯を食べるときには、飲み込む際に必ず口を閉じます。上下の唇をしっかりと閉じることが必要なのです。これには少し練習が必要です。

けれども、赤ちゃんたちは実はすでに自然に練習をはじめています。4ヶ月から5ヶ月頃になると、手や足、おもちゃや手に持った何かを、口に入れて遊び始めるのです。はじめて、お母さんのおっぱいや哺乳瓶の乳首以外のものを口にして、それをしゃぶったり、まだ生えてこない歯で噛むような動作をしてみたり、口の中に入れてオエっとなってみたり、その過程で、口を閉じるための動作が上手になり、筋も鍛えられていきます。ものが入ったときの刺激にも慣れていくので、離乳食のスタートで使うスプーンも、心身ともに受け止めやすくなります。

またその頃、唾液もたくさん出るようになってきますね。口にものが入ると、唾液を出す唾液腺が刺激されます。糖の消化の第一段階には唾液の中のアミラーゼが必要ですし、唾液を飲み込む練習がその先の離乳食の飲みこみにも影響してきます。赤ちゃんが、口を使って「遊ぶ」ことをじっくり見守ってあげたいところです。ただし、大人が人差し指と親指を使って作る円(オーケーサインの輪)を通るようなものは、口に入れないように注意が必要です。気管を塞ぐ可能性があるサイズなので、気をつけましょう。

食事の姿勢を保てるようになるまでは支えてあげて

④「食事のための姿勢を安定して長時間とることができない」。これは、離乳食を始める頃の多くの親御さんたちが戸惑うのではないでしょうか。離乳食を始める時期と言われている生後5〜6ヶ月は、赤ちゃんを椅子に座らせても、うまく身体をまっすぐに保つことができないのです。それもそのはずで、赤ちゃんが自分の体幹の力を使って座ることができるのは、ハイハイをし始めてから。それ以前は、座らせることはできても、自分で座り姿勢を調整する能力はまだありません。

ぐらぐらの身体で食べ物に注意を向けて上手く動作を遂行するのはとても難しいことです。ですので、もし最初の離乳食のひとくちで上手くごっくんできなかったら、大人の膝の上で、少し背中を支えて寄りかかれるような姿勢で、食べさせてあげてみてください。姿勢が安定すると、食べ物への視線も安定しますし、口も動かしやすくなります。また、まだ液体状のものをスプーンから受け取るわけですから、慣れるまではこぼしてしまうと思いますが、支えてあげることでそれも防ぐことができます。寝返りやずり這いをたくさん繰り返すと、姿勢を保つ力も能力も成長してきます。ひとりで座って食べるのは、身体が追いついてきてからでも大丈夫です。

離乳食のステップアップは赤ちゃんのお口の様子を見ながら

さて、一度離乳食が始まると、そこから先は形態アップをしていくことになります。どろどろの状態の食べ物から、固形物まで、少しずつ食べ物の硬さを硬くしていくことになります。何ヶ月になったらどのくらい・・・と本やインターネットに当然のように書いてありますが、実は食べる動作の発達にも個人差が大きく現れてきます。歯や消化酵素の点でも個人差がありますし、口の運動や姿勢は特に赤ちゃんそれぞれの遊びかたや日々の生活と関係してくるからです。身体をよく動かす赤ちゃんは、お腹も空くのでモリモリ食べるかもしれません。けれども、いつまでも柔らかいものだけを食べていれば、咀嚼する練習が不足してきます。形態をあげても、ごっくんしているだけ、では困るわけです。

次のステップに進む際には、赤ちゃんの口の動きをよく見てみましょう。今までより少し固いものが口の中に入ったとき、これまでのごっくんではなく、少し、もぐもぐしているでしょうか。していたら、そのまま続けて大丈夫です。少し固いものを入れても、どうやら液体状のものと同じように飲んでいるな・・・と思ったら、もう少し時期を遅らせて構いません。遅らせているその間に、例えば、10✖️3センチくらいに切った出汁昆布を使って、「しゃぶってかみかみする」ような練習をしてもいいでしょう。赤ちゃん自身に握ってもらって口に運ぶようにすると、今後のカトラリー使いの練習も兼ねることができます。

コツは、形態アップのときに、必ず一つ前の形態のときの飲みこみかたと比較することです。まだできないな?そう思ったら、噛む練習を考えてみる。そうすることで、一般的なスケジュールに振り回されずに、目の前の赤ちゃんのための離乳食をオーダーメイドで手渡せるようになると思います。

ライター / 得原 藍

理学療法士。大学卒業後、会社員を経て理学療法士の資格を取得。病院勤務を経てバイオメカニクス(生体力学)の分野で修士号を取得。これまでの知識や経験を生かし、現在は運動指導者の育成、大学の非常勤講師などを務める。また、子育て支援団体との協働で運動発達に関する相談を受けたり、外あそび活動などを行っている。6歳男児の母。