みなさんは、毎日の子育てを楽しんでいますか。喜びを感じるひとときもあれば、ふと「こんな時、どうしたらいいの?」「これって、このやり方でいいの?」と、迷いが出てくることもあるのではないでしょうか。運動発達の専門家である理学療法士・得原藍さんによる、楽しみながら子どもの育ちをうながす親子の関わり方のコツを教わる連載です。
1.母親から離れない子ども。もっと他の人と関わってほしい
2.未知のことに慎重になるのは自然なこと
3.知らない世界を安心な「知っている世界」へ
4.3歳はこの世に生まれて1000日
母親から離れない子ども。もっと他の人と関わってほしい
藍さんこんにちは。3歳の子どもについて相談させてください。物心ついたころから、息子の私への依存が強く、他の人となかなか関われないのが悩みです。慣れさせようといろいろな場所に連れて行くのですが、私にしがみついて離れようとしません。夫にもあまりなついていないので、何をするにも私と一緒でなければならず、私自身、少し疲れてもいます。
遊び場などではおもちゃに興味を惹かれて少しだけ離れることもあるのですが、スタッフさんや他の子どもたち、親御さんに話しかけられると、「ママ!」と言って逃げてきてしまいます。
来年には幼稚園入園を迎えます。このままで大丈夫なのか、とても不安です。
未知のことに慎重になるのは自然なこと
こんにちは。ご質問寄せていただいてありがとうございます。3歳のお子さんについてのご相談ですね。お母さんを頼りにして世界を広げていっている真っ最中とのこと、お母さんが安心の基地なんですね。お母さんが少し「疲れてしまう」という気持ちもわかります。常に一緒にいること、深く頼られ続けることは、もちろん親として嬉しいこともあるけれど、疲れてしまうこともありますね。今日はまず、子どもたちから見た世界について考えてみましょう。
0歳の頃、はじめてお子さんが家の中を移動し始めたときのことをおぼえていますか。寝返りをしたり、ずりばいやハイハイをしたりしながら家の中の探索をしていたと思います。お子さんによっては、引き出しを開けたり、ドアに閉じ込められたり、いろいろ事件も起こったことでしょう。彼らにとっては、毎日を過ごす家そのものが、興味の対象でした。それには理由があります。信頼している家族の皆が動いている場所を、自分も知りたかったからです。同じように、スマートフォンやテレビのリモコンなど、大人が触るものも大好きですね。子どもは、大人がしていることに興味津々なのです。
歩けるようになって家を出るようになると、世界が一気に広がります。知らない道、知らない景色、知らない人々。知らないことに直面したとき、子どもに限らずすべての生き物はある程度慎重になります。そんなとき、既知のものに安心を求めます。いま、お子さんはその安心をお母さんに求めているのですね。
知らない世界を安心な「知っている世界」へ
では、そのような状況のとき、どうやって「知らない世界」を安心できる「知っている世界」にしていくことができるでしょうか。まずは、お子さんのペースで世界を広げていってみましょう。家の中を自分の意思で探索していった頃のように、まずは玄関を出て、どこに行きたいかお子さんに聞いてみましょう。少しずつ、自分の手足で、世界に触れていくのです。もしかしたら、家の前の道をひたすら真っすぐ歩くだけかもしれません。目を離さずに、すぐに手が伸ばせる距離で後ろを歩いて、行き先は任せてみましょう。途中でしゃがんで地面を歩いているアリを見つけたり、花を摘んだりしたら、待ってあげましょう。そして、お子さん自身が振り向いて、お母さんにアリや花の存在を伝えてきたら、笑顔でよく見つけたね、と言ってあげましょう。そういったやり取りの中で、外の世界が、少しずつ自分の世界になっていきます。
お子さんは、遊び場などで少し離れることができるということ。そこで、「ママ!」と戻ってきたときには、ここにいるから大丈夫よ、と伝えて、また一歩遊びへと踏み出すまでゆっくり待ってみましょう。時間はかかるかもしれませんが、ハラハラしなくて大丈夫です。膝に戻ってきたお子さんの居場所になり、お母さん本人は慌てず本を読んだりしていてもいいのです。お母さんが安心してその場をゆったり楽しんでいるのを感じて、「お母さんが落ち着いているから大丈夫な場所だ」と理解していくきっかけになります。とても遠回りに感じるかもしれませんが、急がば回れ、です。ゆったり構えてみてくださいね。
幼稚園に行く前には、少しアドバイスがあります。入園までの半年の間に、幼稚園の体験会や開放日などがあれば、遊びに行きましょう。そして、園庭やお部屋でゆったり過ごしましょう。何もしなくてもいいですし、できれば、幼稚園の先生達と楽しく会話ができると良いと思います。そこで何度か過ごして、お母さんがゆったり楽しく過ごし、帰り際に、楽しくていい場所だったね、と話しかけましょう。そうか、あそこは楽しい場所だったんだ。そういえば、お母さんはゆったりしていたし、他の大人とも楽しそうに話していたな、そういう様子を感じさせてあげましょう。知っている顔がある場所になると、入園の最初の緊張がほぐれてくることでしょう。
3歳はこの世に生まれて1000日
わたし自身が子育てを始めたとき、わたしも質問者さんと同じように、これはちょっと疲れてしまうなあ、と感じたことがあります。ちょうど、同じ3歳くらい。いやいや期の夏、朝明るくなると目が覚める子が、4時に起きて遊びだしていた頃でした。そのとき、あんまりつらかったので、自分の母親にちょっと話を聞いてもらったんです。相談というほどのことでもなく、たまたま実家に用事があって戻るついでに子どもを挟んで話をした程度のことなのですが。そのときに母が言った言葉をいまでも時々子育てに悩んだときに思い出します。母は3歳の子を見て「まだこの世に生まれて1000日くらいしか経っていないもんねえ」と言ったのです。1000日。長いようですが、自分自身が生きてきた時間はそれの何倍になるのだろうかと考えたとき、「世の中は40年生きた自分にもわからないこと、はじめてのことがたくさんある」ということに気づきました。
いま、わたしたちがこうして交わし合っている悩みも、またいつか子どもたちが成長して親になったとき、同じように経験するのかもしれませんね。
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