言葉の発達が気がかり。様子見で大丈夫?:理学療法士が伝える!楽しくすくすく育つコツVol.34

みなさんは、毎日の子育てを楽しんでいますか。喜びを感じるひとときもあれば、ふと「こんな時、どうしたらいいの?」「これって、このやり方でいいの?」と、迷いが出てくることもあるのではないでしょうか。運動発達の専門家である理学療法士・得原藍さんによる、楽しみながら子どもの育ちをうながす親子の関わり方のコツを教わる連載です。

目次
・言葉の発達が遅いようで心配です
・したい、ほしい、してほしい、という意思は感じられますか?
・子どもが「〜してほしい」という前に、先回りをしていませんか?
・「見守り」と「オープンクエスチョン」を意識してみましょう

言葉の発達が遅いようで心配です

得原さんこんにちは!もうすぐ2歳になる子どもの母親です。子どもの口数が少なく、しかも、まだ「マンマ」「ブーブー」などの一語文の段階なので、言葉の発達が遅いのかな?と気になっています。同じ年齢の周りの子たちはもう二語文や三語文で話すようになっていて、どうしても差を感じてしまいます。こちらの話しかけにはよく応じていて、目を合わせたり、嬉しいときには声を上げて笑ったりはよくしています。言葉の発達をうながすポイントなどあれば教えてください。また、受診した方がいい場合についても教えていただけるとうれしいです。

したい、ほしい、してほしい、という意思は感じられますか?

こんにちは、ご質問ありがとうございます。お子さん、2歳になられるのですね。目を合わせたり嬉しいときには声を上げて笑ったり、毎日楽しく過ごしていらっしゃるのだろうなあ、と思いました。言葉数が少なく、単語で話す様子が気になるとのこと、たしかに2歳くらいの平均だと、2語文を話せるようになる、と書いてあるものもありますし、周囲にもたくさん話すお子さんがいるかもしれませんね。今日は、発語とはどういうことか、についてお話したいと思います。そのなかで、「うながすポイント」を一緒に考えていきましょう。

発語は、コミュニケーションをとるための人間の機能のひとつです。自分の思っていること、考えていることを、周囲の人に伝えるための手段ですね。ですから、まずは、お子さんに「伝えたいことがあるかな?」ということを考えてみましょう。日々生活をしていて、お腹が空いたよ、とか、もっと遊びたいよ、とか、お母さんこれ見て、というようなお子さんの意思は感じられますか?また、お母さん以外の人に対してはどうでしょう。もし「あるある、要求はすごいのよ」ということでしたら、伝えたい!という気持ちはたっぷりあるということですね。

子どもが「〜してほしい」という前に、先回りをしていませんか?

もし、「あんまり要求がないなあ・・」と感じているとしたら、ふたつ、振り返ってみてほしいことがあります。ひとつは、先回りしてしまっていないか、ということです。要求が出る前に、要求を満たされてしまうと、特に話しかける必要がなくなってしまうのですね。そうなると、話す機会が減ってしまいます。ちょっと極端な例ですが、むかしのテレビ番組で、無口なお父さんを見たことがありますか。食卓に座っていると、ご飯が出てくる、お茶が出てくる、帰宅すればお風呂の用意ができている、そういう環境だと何も話す必要がなくなります。

実は、小さい子も同じです。いつでも欲しいものが目の前にある、欲しくなったときにサッと取り出してくれる人がいる、それだと話す必要がないわけです。2歳ではまだ、雑談はできません。必要に応じて、自分の欲求を理解してもらうための言葉や、犬がいた、車がある、というような発見を誰かに聞いてもらいたいという気持ちから、言葉が出てくるのです。

さて、そう考えてみると、発語を促すために、お母さんや周囲の大人はどのように接したらいいでしょうか。

「見守り」と「オープンクエスチョン」を意識してみましょう

ポイントは大きくふたつあります。ひとつは、お子さんが目線や表情で何かを訴えてくるまで、待つこと。たとえばおもちゃの棚の前に立ってもぞもぞしていたら、困ってお母さんのところに来るまで見守ってあげてください。お子さんからの要求がある前に手を出さないことが大切です。困って、指を指してお母さんの方を向いたり、お母さんの手を引っ張っておもちゃの棚の前に連れて行ったり、そういう具体的な要求が出るまで、少し、観察してみるのです。

ふたつめのポイントは、オープンクエスチョンを使うことです。ひとつめのポイントで、お子さんがお母さんのもとにやってくるとき、きっとお母さんは阿吽の呼吸で何を伝えようとしているかわかると思います。けれどもそこであえて、「どうしたの?」「何が欲しいのかな?」と、発語が必要な返答をしてあげてください。もしかしたら、最初はそれで泣いてしまったりするかもしれません。いつも指差しで通じるのに、突然お母さんが欲求を叶えてくれなくなるわけですから、どうしたらいいかわからなくなってしまうんですね。そうしたら、やさしく、「◯◯取って、と言ってみたらいいのよ」と教えてあげてください。物の名前を教えてあげると同時に、要求の仕方を見せてあげるのですね。言葉は、日々のコミュニケーションそのものが積み重なって出てくるようになるものです。ぜひ、試してみてください。

なお、もしも「欲求がない」「こちらの言っていることが何も通じない」というようなことがあれば、そのときは小児科で相談してください。これまでに気づかずに耳下腺炎(おたふくかぜ)などに罹患していると、聴力が低下する可能性もあります。予防接種を受けていればそれほど心配する必要はありませんが、聞こえていない可能性がないか、ちょっと検討してみてください。

子どもは模倣の天才。他の人との会話の様子を見せてあげましょう

さて、他にも、すぐにでもできる工夫があります。まずひとつめは、お母さんが他の人と会話し、できれば何かを要求している様子をお子さんに見せてあげることです。子どものコミュニケーションは、模倣から始まります。大家族や、兄弟のいる家庭では、子どもの言語の発達が早いのですが、それは周囲の「やりとり」をよく聞いているからなんですね。誰かが誰かに何かを伝えている様子を見て、自分も真似してみよう、と子どもは思うものなのです。いま、どうしても日中は母子だけ、という環境が増えています。その場合、そうした「子ども自身が観察して模倣する」という機会が失われている可能性があります。おじいちゃんおばあちゃんに会いに行ったり、近所の人と立ち話したり、子育てひろばで周囲のお母さんと会話をしたり、そういう環境を作ってみましょう。

もうひとつあります。それは、お母さんが「今からしようとしていること」を説明するようにすること、それから、お母さんが「何をどう感じているか」を言葉にして伝えてみることです。たとえば、お出かけする日には、朝ご飯をお子さんと食べながら、今日の予定を話してみましょう。何時頃、どこに行って、なにをするのか。そこに一緒に着いてきてもらいたいと思っているのだけど、いいかしら?と、同行してもらう大人に話しかけるときのようなことを、お子さんにも伝えてみましょう。それから、夕ご飯やお風呂などのゆったりした時間に、今日はお母さんこんなことが楽しくて、こんなふうに思ったの、と、お母さん自身の気持ちをお子さんに聞いてもらってください。そうやって、具体的な説明を聞いたり、大好きなお母さんの気持ちを聞くことは、お子さんにとったら「なにか言ってあげたい」という気持ちを呼び起こすものなのです。それに、言葉の意味を把握していく語彙の獲得にも、きっといい影響が出るはずです。

コツは、一緒に暮らしている仲間として、世話をするのではなく「共に生活する」という視点でお子さんと関わることだと思います。そのことが、「自分もなにか伝えたい」という根源的な欲求につながって、お子さんの言葉への意欲を伸ばしていくのではないかと思います。ぜひ、試してみてくださいね。

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ライター / 得原 藍

理学療法士。大学卒業後、会社員を経て理学療法士の資格を取得。病院勤務を経てバイオメカニクス(生体力学)の分野で修士号を取得。これまでの知識や経験を生かし、現在は運動指導者の育成、大学の非常勤講師などを務める。また、子育て支援団体との協働で運動発達に関する相談を受けたり、外あそび活動などを行っている。6歳男児の母。