子どもの発達をうながす育児グッズの選び方|理学療法士が伝える!楽しくすくすく育つコツVol.24

みなさんは、毎日の子育てを楽しんでいますか。喜びを感じるひとときもあれば、ふと「こんな時、どうしたらいいの?」「これって、このやり方でいいの?」と、迷いが出てくることもあるのではないでしょうか。運動発達の専門家である理学療法士・得原藍さんによる、楽しみながら子どもの育ちをうながす親子の関わり方のコツを教わる連載です。

育児グッズ、「買ったけど使わなかった!」とならないポイントは?

得原さんこんにちは。生後2ヶ月の女の子の母です。
出産前はあれこれ育児グッズを揃えたのですが、案外使わずに新生児期が過ぎようとしています・・・。赤ちゃん期後期はできるだけグッズは精選してすっきり暮らしたいです。
子どもの運動や発達の観点から、今から1歳ぐらいにかけて、「これはあると便利だよ」というおすすめグッズを教えてください。

赤ちゃんみんなに合う道具はない。我が子に合わせた道具選びを

こんにちは、ご相談ありがとうございます。生後2ヶ月の女の子とのこと、そろそろ向き合ったときに目が合うようになって、日中一緒に過ごす時間も新生児の頃とは違った楽しさがあるのではないでしょうか。でもまだまだ夜間の睡眠も安定しない頃ですから、お母さんも無理をせず、休息を大事にしてくださいね。

さて、赤ちゃん期後期の便利グッズをお探しとのこと、いまたくさんの便利そうな商品がありますから、どれが自分の子に合うものなのか、探していくのも楽しいですよね。でも出産前に集めた新生児用の便利グッズがあんまり役に立たないままだった、ということも経験されているんですね。もしかしたらお気づきかもしれませんが、赤ちゃんみんなが好む道具って、なかなかないんですよね。せっかくの道具も、使ってもらえなければ宝の持ち腐れになってしまいます。そこで、今回は、0歳児の身体の発達に必要なことをお話ししながら、どんなモノ・コトが子どもの発達を支えるのか一緒に考えてみたいと思います。

一番大事な「じっくり見守り、手を出しすぎずにいる」のポイントは

まず、1歳くらいまでの発達について、ぜひ知っておいていただきたいことがあります。それは、発達は赤ちゃん自身の身体の中から泉のように湧き出てくるものだ、ということです。川の源流でコポコポと湧水が満ちるように、赤ちゃんの心身は自ら成長・発達する力を持っています。ですから本来は、その発達のために特別な道具が必要なわけではないんですね。赤ちゃんは、1歳までの間に、泉の穴を塞がれることがなければ、人間社会に適応するための力を着実に身につけていくことができます。この「泉の穴を塞がなければ」というところがポイントです。赤ちゃんが発達しようとしている姿を、周りの大人がじっくり見守り、手を出しすぎずにいる、ということがとっても大切なのです。

手を出しすぎず、というのはとても難しいところです。同じように、道具も、用意しすぎず、が大切です。その勘所は「いま、この子はなにをしたいのかしら」という視点です。いま、2ヶ月のお子さんは、目が合うと興味深そうに見つめたり、話しかけるとそちらに目を向けて少し微笑んでみたりしているのではないでしょうか。それは、まだ発達途中で動きがままならない身体での、赤ちゃんの精一杯の「興味ある!楽しいよ!」のサインです。きっと、毎日一緒にいる中で、この歌を歌うとご機嫌だなあ、とか、午前中は笑うことが多いなあ、とか、素手で抱っこして一緒に揺れてあげると心地よさそうだなあとか、お母さんも感じていることがあるのではないでしょうか。
実はその「興味・関心」こそが、発達を大きく進める原動力になっています。大人も、好きなことはどんどん上手になりますね。そして、好きな気持ちに突き動かされたときは、誰かに何かを教え込まれるよりも、自分で動いて知りたい、と思うものです。身体の発達も、心の発達も、食べるという行為や何かを楽しむという気持ちも、実は興味関心が成長の源なのです。
0歳に「興味・関心」なんてあるの?と思うかもしれませんが、表出に関する発達(例えば、言葉)はあとからついてくるものだからわかりづらいだけで、赤ちゃんたちは、今の自分にできる動きや表情を使って全身で意志を発信しています。

すでにある身の回りのものが発達を促してくれる

では、そんな赤ちゃんの興味・関心をどんどん引き出してあげるにはどうしたらいいでしょうか。お腹の中からこの世に産まれ出てきた赤ちゃんにとっては、主たる養育者であるお母さんやお父さんが、この世界の道標です。何か新しいものにチャレンジするとき、お母さんとお父さんの優しい声かけや、頑張ってみたら?と背中を押してくれる気持ちが、赤ちゃんたちの心の栄養になり、安心して行動範囲を広げていく土台になります。最近、啓発書などで「心理的安全性」という言葉がよく使われていますが、赤ちゃんの時期にやさしく頼りになる大人を近くに持つことは、人生を支える身近な人間との信頼感を醸成する大事な経験なのです。

心理的安全性(発達用語では愛着形成と呼びます)を獲得していく中で、赤ちゃんはどんどん成長していきます。運動に目を向けてみると、生後3ヶ月から4ヶ月頃にかけて、赤ちゃんの首が据わってきますね。これは、興味に合わせて目線を動かし、首を自在に動かせる、という興味関心に目を向ける力の発露でもあります。そこからの赤ちゃんの世界へ歩み出す力は目を見張る素晴らしさで、天井しか見えない世界から抜け出そうと、一生懸命寝返りを練習します。寝返りができれば、地平線が見えるわけですから(実際は家の壁ですけれど)、今度は地平線に向かって動こうと努力します。地面で目的地にたどり着けるようになれば、次は上を目指します。三次元の世界を見たいという気持ちが、立ち上がり、歩き、よじ登る力に繋がっているわけです。

特別な道具がなくても、まずは家の中の空間やモノが、次は近くの公園にある人のざわめきや木陰のゆらめきが、その先には地域の大きな広場での起伏やそこまでの道のりの長さが、赤ちゃんたちの発達を促してくれます。赤ちゃんにとっては、全てが目新しいものだからです。

道具選びは赤ちゃんの「いま」の興味関心に寄り添って

道具の話から、随分話が広がってしまいました。ここまでの話を踏まえて、何か赤ちゃんの発達に良い道具は・・・と考えてみると、その時々に赤ちゃんが興味関心のある「コト」に注目していくと、見つかってくると思います。

例えば、いま、ゆらゆら揺れるものに関心があってずーっと見ているなあ、と感じたら、糸と折り紙を使って赤ちゃんの近くにモビールを吊るしてあげるのはどうでしょうか。また、この先、離乳食が始まるタイミングで大人のスプーンでは大きすぎて食べづらそうだなと思ったら、アイスクリーム・ショップの味見用の小さいスプーンのような、赤ちゃんの口に合う小さくて薄いスプーンを使ってみる、なんていうことも考えられそうです。もしも寝返りをはじめたら、今度はベビーベッドという便利な道具を手放して、ゴロゴロと興味のままに寝返りできる環境を用意してあげるのも大人の采配ですね。

気をつけなければならないのは、赤ちゃんは日進月歩で発達しているので、大人のわたしたちでは追いつけないような変化が日々繰り返されていくということです。今日うまくできなかったことが、明日突然できるようになりますし、執着したおもちゃもあっという間に飽きて忘れてしまいます。0歳の赤ちゃんに限っては、ひとつのおもちゃで3ヶ月遊べる、ということはないと思っていいと思います。ですから、何か特定のものを手に入れるよりも、いまこの瞬間に赤ちゃんが好きそうなこと、興味関心のありそうなことをよく観察して見つけて、それを楽しめるような関わりをしてあげることが一番の発達の手助けになります。

お子さんは、お母さんの歌を聞くのが好きですか。話しかけると、目を合わせて微笑みますか。素手で優しく抱っこしたら、気持ちよさそうな顔をするでしょうか。そんなときは、たっぷりと、抱っこしながら目を合わせて、歌を歌ってあげてください。この人は、自分の興味関心に気持ちを寄せてくれているのだな、と、赤ちゃんも気づきます。そして、自分をわかってくれる人、としてお母さんを認識し、その人が近くにいる安心のもとで、今必要な発達を遂げていきます。赤ちゃんの「いま」に注目するお母さんの目が、発達に良い一番の道具です。

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ライター / 得原 藍

理学療法士。大学卒業後、会社員を経て理学療法士の資格を取得。病院勤務を経てバイオメカニクス(生体力学)の分野で修士号を取得。これまでの知識や経験を生かし、現在は運動指導者の育成、大学の非常勤講師などを務める。また、子育て支援団体との協働で運動発達に関する相談を受けたり、外あそび活動などを行っている。6歳男児の母。