「わたし」を主語に。幸せに生きるための人権の話 谷口真由美さん講演会vol.1

出産する女性が、もっと尊重されるように。
そんな思いが込められた「妊産婦を尊重したケア:産婦が普遍的にもつ権利」憲章の日本語訳への取り組みが進められています。日本語訳にあたり、法律、人権の専門家として関わってこられた谷口真由美さんの講演会(オンライン)が開催されました。 MotherRingも、共催としてお手伝いさせていただきました。

谷口さんは、著書「おっさんの掟~『大阪のおばちゃん』が見た日本ラグビー協会『失敗の本質』~(小学館新書)」でも、男性中心主義や序列主義の実態について分かりやすく説いています。

Vol.1では、講演会の内容から、社会の中で女性が直面する不平等さについて、また、わたしたちのもつ「人権」とは何かについてお届けします。

女性がいまだに置かれる不平等な状態

谷口さん: 今日(講演会が行われた3/8)はHappy Women’s Day(国際女性デー)ですね。シンボルであるミモザの花のブローチとペンダントをつけていますが、最近は単に「ミモザを買う日」だと思われていてシャクなので、「ミモザを燃やしてたいまつにして、ぐんぐん進んでいこう」と言っています(笑)。
最近、「ジェンダー」というとLGBTQの話だと捉える人も多いのですが、LGBTQもWomen’s Rights(女性の権利)もどちらも大事で、性による差別には、いずれもパラレルに取り組まなくてはいけないはずです。男性性によって生きづらい男性のことも、もちろんです。

日本は「2020年までに30%女性を意思決定機関に入れる」と決めましたが、未達成です。国会議員も、ざっくり9対1の割合で男性が中心です。そんな中で、活躍している女性のことをモンスターのように言う人もいます。「女性が強くなったのであれば、男性の人権も尊重してほしい」という人がいたり、「女性は話が長い」、「感情的になる」という話も出てきます。

今回の講演会は医療現場にいらっしゃる方がたくさん参加してくれていますが、みなさんは現場で共感や感情労働を求められていると思います。それなのに、ネガティブな感情を出した瞬間に「女性は感情的だから仕事にならない」と言われてしまう。感情のケアを求められるのに自分の感情は否定される、アンビバレントな状態です。これでは何を求められているのかわからなくなってしまいますよね。

わたしたちは「幸福追求権」をもっている

そんな時こそ、自分が快適に機嫌よく暮らすことを人生の中心に据えないといけないと思うんです。日本の最高法規である憲法の13条にも「幸福を追求する権利がある」と書かれているんですよ。つまり、私たちはみんな幸福追求権(機嫌良く暮らすための権利)をもっているんです。

妊産婦さんの場合なら、「妊産婦さんが機嫌良く暮らすためには、こういうことが確保できないといけない」と、妊産婦さんを真ん中に据えて考えてみる。それが、今回日本語訳を行っている「妊産婦を尊重したケア:産婦が普遍的にもつ権利」憲章だと思うんです。

「わたし」を主語にすることから始めよう

日本の学生さんに「人権って何?」と聞くと、「誰もが生まれながらにしてもっている権利」といった答えが返ってきます。一方で、海外の子供たちは「自分には意見表明の権利がある」、「学ぶ権利がある」、「食べる権利がある」という風に、個別具体的な権利の話が出てくるんです。

日本で人権を語るとき、「誰しも」や「人はみな」など、主語が誰かわからない表現になりがちです。ですが、人権を考えるために必要なのは、まず「わたし」を主語にすること。自分のことであると認識するのが大事なんです。

1800年代後半、ヨーロッパやアメリカでは、革命や憲法成立の過程で人々が権力に抗って人権を勝ち取ってきた経緯があります。一方、「西洋列強から認めてもらうため」という外発的な理由で憲法をつくった日本は、人権を勝ち取った体験をもっていないんです。それが日本の人権教育が遅れている理由のひとつかもしれません。

憲法は人権を守るためにある

日本国憲法において、憲法尊重擁護義務を負っているのは99条で、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と書いています。

つまり、憲法を大事にして守らないといけないという義務は、「行政」、「立法」、「司法」の三権に関わる人たちにかかっているわけです。国民であるわたしたちは、憲法を守る義務はありません。権力を行使する側が暴走しないよう、制約をかけているのが憲法であり、立憲主義です。

「憲法を改正しないと動きにくい」と言う政治家がいますが、それは「憲法がきちんと効いている」とも言えるわけです。「憲法はわたしたち “ が ” 守るもの」と思っているかもしれませんが、本当は「憲法はわたしたち “ を ” 守るもの」であることを知ってもらいたいですね。

そして、「わたしたちは対等である」ことが大切です。対等とは、「私たちはお互いに権利があり、その権利をお互いに認め合い、安心して共に生きていこう」ということ。ここから出発しないと、人権を理解することはできません。わたしたちは対等であるという前提に立つことで、例えば「男性より女性の国会議員が極端に少ないのはなぜか?」という話に疑問符がつくようになっていくわけです。

機会ではなく結果の平等を求める

一方で、「機会の平等」という言葉があります。スタートラインを一緒にしてやるぞ、というのは一見平等に見えますが、それぞれが持っている資源によって、全く違うものになります。

たとえば、飲み会の中で昇進に関わる話が行われていることがありますよね。その飲み会に、女性だから誘われていなかったり、家庭のケアを優先すべきといった社会規範に縛られて女性が参加できなかった場合に、この飲み会に参加できないことで昇進の話がきちんと教えてもらえないことがあるとしましょう。これは平等でしょうか?そして、公平でしょうか?

「明日、昇進試験をします」と言われ、翌日になってはじめて、試験内容が100m障害物競走だと知ったとします。事前の飲み会でそのことを聞いていた男性はジャージと運動靴で来たけれど、飲み会に参加していなかった女性は知らずにタイトスカートのスーツとヒールで来たらどうでしょう。つまり、情報という資源を与えられていないわけです。

ヒールを手に持って、スカートを破り、走り出すパワフルな人もいるかもしれませんが、みんなができることではないですよね。昇進試験が終わった後に抗議すると、「みんな、競走のスタートラインには立ったよね」と言われてしまう。これが機会の平等は与えてやったと言われるものの本質です。

こんな風に、男性は高下駄を履かされているんじゃないか、という事実が見えてきています。女性が特別な高い台に乗せてくれといってるわけではなく、男性が高下駄を脱いだらいいだけなのに、それができていないのが今の日本です。

次回は5/20(金)に公開予定です。
わたしたちには幸福に、快適に過ごす権利があると教えてくださった谷口さん。vol.2では、快適に過ごすために必要な「声をあげること」、またそのための工夫について、引き続きお話いただきます。

谷口 真由美(たにぐち まゆみ)さん
大阪芸術大学客員准教授。専門分野は、国際人権法、ジェンダー法、日本国憲法。大阪大学での楽しく工夫された講義は名物となり、大阪大学共通教育賞を4度受賞。新聞、TV、ラジオのコメンテーターとしても活躍。

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ライター / 八田 吏

株式会社 元中学校国語教師。産後ケアの普及に取り組むNPO法人にて冊子の執筆編集に携わったことをきっかけにライター、編集者として活動開始。小学生・中学生の男児、夫と4人暮らし。