「ナーシングドゥーラ」は、看護職の新しい働き方として、今注目を集めている存在です。看護師の働く場所は、病院だけに限ったものではないことを社会に証明、産後の療養期のご家庭で、心身ともに助けが必要なママやご家族の心強いサポーターとして、生き生きと働いています。
最終回は、社団法人「国際ナーシングドゥーラ協会」を設立した渡邉玲子さんに、これからの「ナーシングドゥーラ」の課題や目指すところについてお聞きしていきます。
看護師経験だけでなく、人生経験すべてが生かせるから面白い!
界外: 前回お話を伺った養成講座のカリキュラム、本当にしっかり構築された内容で、特に実習の中身は、これができたら現場に出ても怖くない! と、受講者に自信をつけてくれるような素晴らしいものでした。
渡邉玲子さん(以後、渡邉さん): ありがとうございます。実は、資格を持っているのに現在は働いていない、いわゆる潜在看護職の方の再教育にも活用できるように作ったカリキュラムでもあるのです。ブランクがあったことで現場に出ることへの不安を持つ人が、自信を持って復職できるようにと。
「ナーシングドゥーラ」は潜在看護師の方にもぜひ活躍してほしいという思いから作ったものでもあるのです。
界外: なるほど。そうだったのですね。
渡邉さん: 日本の看護師資格を持つ人の数は約150万人、その半数が潜在看護師と言われています。その理由の多くは、自分の子育てや、家事との両立の難しさなのです。。私自身も、もしあのまま病棟勤務の看護師を続けていたら、遅かれ早かれキャリアを中断せざるをえなかったかもしれません。子どもが小学校に上がる頃になると、夜勤はもうちょっと厳しいな、とか、子どもが熱を出したときくらいは看てあげたい、などのやるせない葛藤は理解できます。
界外: そういう方にとってナーシングドゥーラは、資格が生かせることももちろんですが、主婦としての経験や子育ての経験などすべてが生かせて、しかも無理なく働ける環境なんですね。渡邉さんのように、目の前の人を助けたい、支えたいという寄り添いの気持ちから看護師を目指した人にとっては、もともと志望していた仕事内容に近い職業でもある、と。
渡邉さん: はい。子どもとの時間も大切にしたい、病気の時は傍にいてあげたい、ごはんも作ってあげたい…だけどやっぱりやりがいのある仕事もしたい、そんな私のような欲張りな人にはピッタリな仕事です。
そして何といっても仕事をしていて面白い! 言い変えれば、楽しい、そして成長できる! ということです。ママとの会話の中で、色々な価値観を知ることができるのも面白いですし、日々新しい学びの連続で、自分が成長していることがわかります。「ナーシングドゥーラ」の経験が浅くても、長い人でも、その人の経験に沿った成長を実感できます。
また、自分の中で試行錯誤し、色々考えながらサポートする中で、良い結果が現れたり、ママから「相談して本当によかった!」と言われると、こちらも「やった!」と手ごたえを感じられます。だからみんなこの仕事にハマるんです。
界外: 自分に裁量があって、やりがいもあって、居場所でもある、確かに面白い仕事ですね!
渡邉さん: はい。このコロナの影響で、専業主婦だった潜在看護師の方が、色々な形で外で働き始めています。その方たちの選択肢の一つになってくれればという期待もあります。
必要とされる場所へ「ナーシングドゥーラ」のサービスを届けるお手伝いを
界外: そうやって養成を修了した方が70人、そのうち開業されたのが約半数。地域で活躍されている方も出てきた中、今後の課題は何なのか、教えてください。
渡邉さん: ナーシングドゥーラは、南は沖縄、北は今のところ岩手まで、日本全国それぞれの地域に活躍の場があります。都内、そして関東近郊はほぼ協会の手を離れ、自分たちのやり方で活動を広げていっているところも多く、頼もしい限りなのです。でもまだまだナーシングドゥーラの存在自体が知られていない場所もあります。そういう地方のやる気のある人達を、協会がサポートしていかなければならない、していきたい、と思っています。
界外: サービスを利用してもらってその評判がいいと、「どこどこに頼むといいよ」と口コミで存在が広まり始め、その連鎖で次々忙しくなっていくのでしょうけれど…。そこに到達するまでが大変ですよね。
渡邉さん: はい。例えば山形あたりはまだまだこれからです。ただ、山形は公的サービスが今入ってきており、そちらに力を入れていく事になるかもしれません。
界外: 行政からの信頼が厚いのですね。
渡邉さん: 本人が公的サービスに関心があり、努力をして成果をあげたからこその信頼関係だと思います。開業して、どういうお客様をメインでやっていくかは、個人の関心次第、サポートは惜しみなくしていきますが、協会がこうしてください、と言うようなことはありません。
私は現在、葛飾にナーシングドゥーラとして籍を置いていますが、葛飾では、お話したように産後ドゥーラさんと組んで新たな展開を始めたばかりです。
「半年後、遅くとも1年後には私は抜けるからね!」 と言っていますし、葛飾の人たちも「自分たちの力だけでやっていきます!」と言っていますから、その後は自分たちのやりたい形で運営をしていくと思います。
界外: いままさに自立する時期を見計らっている段階なのですね。
渡邉さん: はい。軌道に乗るまではしっかりサポートし、自立への道筋ができたら、徐々にフェイドアウトする。ナーシングドゥーラの皆さんに対しても、そういう関わり方が理想だと思っています。
高齢者やその家族、心のサポートを必要としている人へ寄り添いを
界外: 協会のこれからの展望を教えてください。。
渡邉さん: まず、代表の職は、近い将来どなたかできる人に譲りたいと思っています。
界外: そうなんですか?
渡邉さん: はい。年齢的なこともありますし、もし私が体調を崩したりしたときに、協会の活動に影響が出てはいけませんから。もしくは、代表なしでも活動ができる体制を整えるかのどちらかですね。
界外: ちょっと意外でしたが、活動への影響を考えて、なのですね。どういう方にお願いしたいですか?
渡邉さん: いや、まだそんなに急いでいません(笑) でも、私と同じような思いや志を持っていてくれる人にお願いしたいですね。
私は昔からいろいろな人に寄り添ってきました。
界外: 暴走族の友人の相談に乗っていた、中学生のころからですよね。
渡邉さん: 相手が誰であれ、困っている人を助けたい、寄り添いたい、その思いに共感してくれる人であれば、と思っています。
界外: ちなみに渡邉さんご自身の展望は、どうでしょうか?
渡邉さん: ドゥーラと名乗っておいてなんですが、高齢者を抱えるご家庭のサポートも、ナーシングドゥーラに持ってこられるのではないかと思っています。
界外: 産前産後の女性から、対象を変えるわけですね。ご自身の介護体験などからの発想でしょうか?
渡邉さん: それもありますが、そういうお宅にサポートが入れば、本当に助けになると思ったからです。もうひとつは、精神科の患者さんで療養中の方が今いっぱいいらっしゃいます。子どもでも、大人でも、年齢に関係なく、その方のご家庭で家事サポート、お掃除やお洗濯、お料理などの家事をしながら、一緒に散歩をしたり、カウンセリングを行ったり、第3者的な外部から話をきいてあげることができたらいいのではないかと思っています。
界外: いいですね。なんだか目に浮かんできます。そういうお宅に、ちょっと外からの風が入るだけでも、違うような気がします。
渡邉さん: そして、その方たちが目指す自立への手助けができたらと思います。まわりが決めた自立ではなく、その人に一番合っている形で、自立への道筋をサポートできないか、と。
看護職は本来どんな方にでも寄り添える存在であるはずです。実際病院では、ちょっと極端な例にはなりますが、犯罪者の人にも寄り添っていました。それは家庭でも同じ、いろいろな人に寄り添う事は大切なのだと。その気持ちは昔からずっと変わりません。
手と目で護る(まもる)「ナーシングドゥーラ」が、もっと多くの人に寄り添えるよう、これからも活動していきたいと思います。
渡邉玲子(わたなべ れいこ)さん
人に親身に寄り添い、その笑顔を見ることに喜びを感じた10代の経験から、訪問看護を志す。聖路加看護大学卒業後、同院「公衆衛生看護部」に就職。その後結婚出産を経て、3人の子連れで北欧に渡欧。先進的な子育てサービスを目の当たりにし、帰国後は産後ケアに携わる。看護師ならではの寄り添い方、新しい働き方を構想し、2016年「国際ナーシングドゥーラ協会」を設立。理事・代表として現在に至る。現役「ナーシングドゥーラ」である一方、後進の育成にも力を注いでいる。
国際ナーシングドゥーラ協会 https://www.ns-doula.com
インタビュアー 界外亜由美(かいげ あゆみ)
産前産後の女性とサポーターをつなぐ『MotherRing』主宰。やさしさが循環する社会づくりを目指して活動している。「言葉」で伝える制作会社『mugichocolate』代表取締役。
◎infomation
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助産師・ドゥーラ・保育士・ベビーシッター・治療家・リラクゼーション施術者・運動指導者といった、産前産後の家庭へのケアサービスのプロフェッショナルを、MotherRingサポーターと呼んでいます。
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MotherRingは、助産師・ドゥーラ・保育士・ベビーシッター・治療家・リラクゼーション施術者・運動指導者はもちろん、様々な産前産後の家庭へのケアを提供されているみなさまのお役に立ちたいと考えています。上記以外の職種の方も、ぜひ一度お問い合わせください。