みなさんは、毎日の子育てを楽しんでいますか。喜びを感じるひとときもあれば、ふと「こんな時、どうしたらいいの?」「これって、このやり方でいいの?」と、迷いが出てくることもあるのではないでしょうか。そこで、運動発達の専門家である理学療法士・得原藍さんから、楽しみながら子どもの育ちをうながす親子の関わり方のコツを教わる連載をスタートします。
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はじめまして、得原藍です。理学療法士として、子育て広場でお母さんからの相談を受けたり、親子で楽しむ外あそびに取り組んだりしています。おとなとあかちゃんの身体・発達・生活を支えるための知識や技術をより広く伝えたいと思い、理学療法士仲間の中原規予さんとともに、2021年2月に一般社団法人sodatsu-coを立ち上げました。この連載では、「子どもの発達」の観点から、子育てがより楽しくなる親子の関わりについてお伝えします。
「体温調節」、赤ちゃんだからこそ気をつけたいポイント
立秋を過ぎ、暦の上では秋になりましたが、暑い日々が続いています。こんな気候が続く中で心配になるのが、まだまだ身体の小さい赤ちゃんの服装や水分補給ですね。赤ちゃんには「大人より一枚少ない程度の服装で」と言われていますが、季節や場所による差はないのでしょうか。また、何を目安に水分補給し、量はどの程度必要なのでしょうか。ひとつずつ考えていきましょう。
一定の体温を保つことは、生きていく上でとても大切な身体機能です。人間が、赤道直下でも北極圏でも生きていけるのは、体温維持機能が働いているからです。体温を一定に維持するには、「熱を生み出す」「熱を放出する」というふたつの機能のバランスが重要です。暑い季節に重要になるのは「熱を放出する」機能です。生活の中で身体を動かして生まれた熱を、外へ出さないといけません。
熱の放出の仕組みはふたつあります。ひとつは、温度が高いところから低いところへ移動する仕組み、もうひとつは、汗が蒸発するときに熱が奪われる気化熱の仕組みです。夏は、体温と気温の差が小さくなる上に、湿度が高いため、汗の蒸発も制限され、身体に熱がこもりやすくなってしまうのです。
さて、わたしたちはエアコンで環境温度を下げたり、除湿を行ったり、普段よりも薄着をしたり、という工夫をして夏の生活を営んでいますが、赤ちゃんに関しては特別に注意しなければならないことがあります。
赤ちゃんは代謝が高いため、大人よりも熱を生み出しやすいのです。汗をかきやすく、汗をかいたたまま冷房の効いた室内や電車の車両などに入ることで、一気に身体が冷えてしまうおそれもあります。「赤ちゃんは大人よりも一枚服を少なく」と言われますが、真夏の移動では、薄着にすることと、汗をかいた状態で冷房に当たらないように気をつけましょう。
もうひとつ、赤ちゃんならではの大切なことがあります。
それは、温度の変化のある環境で生活することです。2歳までの生育環境が生涯にわたる汗腺の機能に影響を与えることは、広く知られています。
これから先、何十年も日本の暑い夏を過ごしていくことになる赤ちゃん。体温調節が上手になるためには、2歳までの間にきちんと「暑さ」「寒さ」を生活の中で経験する必要があります。熱中症はもちろん心配ですが、適度な外出も大切なのです。
夏の赤ちゃんに必要な水分補給、量とタイミングの見極め
赤ちゃんは代謝が高いので、身体の中で必要な水分量が多く、大人よりも体内の水分量そのものも多いです。一方で、感染症や新しい食物の消化不良などで下痢が起きやすく、水分を失いやすい身体でもあります。自分自身で「喉が乾いたから水を飲もう」と行動できるようになるのは4歳以降だと言われています。ですから、水分の補給は「赤ちゃんが飲みたいときに飲みたいだけ」飲ませてあげるのがポイントになります。
水分が不足しがちになる時間帯は、睡眠中と朝一番です。睡眠中、うっすらと汗をかいているようなら尚更です。部屋の温度を、たくさん汗をかかない程度の温度に調節するとともに、寝る前の水分補給と、寝起きの水分補給を忘れないようにしましょう。赤ちゃんによっては、喉が渇くことで夜起きやすくなる子もいます。夜間の授乳の際に母乳を選んでいる場合には、お母さんの母乳がしっかり出るように、お母さんの水分補給も忘れないようにしてください。
外出時のミルクや水筒の準備・母乳を提供するお母さんの水分補給対策も大切です。夏はいつもよりも多めに準備しましょう。ミルクの量を増やす場合には、粉ミルクの量を増やさずに溶かすお湯の量を1割程度増やすなどの工夫もおすすめです。また、ミルクの温度が赤ちゃんの体温を超えないように、しっかり温度を確認しましょう。ちょっと暑そうだな、汗をかいているな、と感じたら、積極的に水分補給を促してくださいね。
<観察ポイントと対応>
◎体温が上がりすぎ・水分が不足しているとき
観察ポイント
・髪の毛がしっとりするくらい汗をかいている
・乳児期は、水分が不足すると大泉門(頭頂部の凹み)の凹みが見える
・おむつに出た尿の色が濃い・尿の量や回数が少ない
対応のしかた
・衣服を少なくする、特に靴下・レッグウォーマーをとる
・日陰・冷たすぎない水で水遊びをする、ぬるま湯でシャワーを浴びる、濡れタオルで身体を拭く
・水分補給・授乳回数を増やす
(お母さんが水分不足の場合、回数を飲んでいても出ないことがあるので注意)
◎“夏なのに”体温が下がりすぎているとき
観察ポイント
・唇の色が薄く、青紫になっている
・爪の色がピンクではなく白っぽくなっている
・身体が震えている
対応のしかた
・汗などで身体や衣服が濡れていれば、拭く・着替える
・冷房が直接当たらない場所に移動する
・水遊びで体温が下がるようなら水の温度をぬるいお風呂くらいに調整する
暑い夏でも、工夫次第で外で過ごす時間を楽しめる
暑い日が続くと、赤ちゃんを連れての外出をためらってしまいますよね。
ですが、赤ちゃんが体温調節が上手になるためにも、身体の状況をよく観察しながら、外で過ごす時間を持つことが大切です。そのためのいくつかの工夫と、赤ちゃんと楽しめる遊びを紹介します。できることから無理のない範囲で取り入れてみてください。赤ちゃんとの夏が過ごしやすくなるかもしれません。
<真夏の生活の工夫>
外出の工夫
・お出かけのときは、冷房対策としてスワドル(おくるみ)や薄いショールなど、赤ちゃんの分も用意してください
・抱っこ紐で移動するときは、こまめに赤ちゃんを抱っこ紐から出して熱を逃してあげましょう
・抱っこ紐やベビーカーで使うジェル状のひんやりマットは、温まると逆に蓄熱するので気をつけましょう
・身体が熱を持ったときのための濡れタオルと、汗をかきすぎたときのための乾いたタオル、両方持ち歩きましょう(小さいお手拭きサイズで十分です)
・お出かけの予定がない日は、朝または夕方の涼しい時間帯にお散歩の時間を持ちましょう
家でできる遊び
・ベランダやお風呂場にベビーバスや発泡スチロールの箱などを用意して、ぬるま湯を入れ、水遊びをしてみましょう(ねんねの時期は、水ではなくぬるいお湯がおすすめです)
外での遊び
・木陰のある公園で、木漏れ日を楽しみましょう
・レジャーシートを日陰に敷いて、赤ちゃんと一緒に寝転がってみましょう
・自分で床からお座りできる赤ちゃんは、コップと水を用意して「水をこぼす」あそびもできます(やって見せてあげてください)
授乳中のお母さん
・意識して水分を多めにとりましょう。喉が渇いたと感じる前の飲むのがコツです
このようなポイントに気をつけつつ、夏の子育てを楽しんでくださいね!
<参考資料>
・松村 京子「乳幼児・高齢者の体温調節」繊維機械学会誌、1997
・岩崎武史他「乳幼児の水分補給マネジメントシステムの開発」情報処理学会第74 回全国大会論文集、2012
◎infomation
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