赤ちゃんはしっかり見ているし、理解している。「ゆっくりでいい」と伝えたい|sodatsu-co中原規予さん・得原藍さんvol.3

現代の子育ては、健診で「テストをされている」と感じてしまうなど、焦りや不安を抱く要素がたくさんあることを、理学療法士の中原さんと得原さんは教えてくれました。そんな親御さんのために、ふたりはどんな支援をしていくのでしょうか。おふたりのご自身の子育ても含めてうかがいました。

講座や個別相談で子どもの発達を知ってもらう

界外:一般社団法人sodatsu-coでは、発達に悩む親御さんへのアドバイスや、相談を行っていきたいとのお話でしたが、具体的にどんな活動をされていくのでしょうか。得原さん(以下敬称略):まず、親御さんと専門家の方に向けた講座を予定しています。赤ちゃんがどんなふうに発達していくのかを知ってもらう講座です。また、親御さんに向けた個別相談として、その親子の生活全体を踏まえたアドバイスも行っていきたいと思っています。私たちが大事にしたい、「長期的に子どもの発達を見ていくこと」を、それぞれの親御さんと子どもに合わせて、一緒に考える存在になっていきたいです。

中原さん(以下敬称略):Zoom等を使ったオンライン講座や育児相談もできればと思っています。全国的に、運動発達に関した話を聞ける機会が少ないようなんです。今、私たちの拠点は都内に限られていますが、オンラインで勉強会などを開催すると全国から問い合わせがくるので、その必要性を感じていますし、一人でも多くの相談に応えられたらと思っています。

また、発達を長期的にみるという視点を持った保育士さんや子育て支援施設の方が増えるといいなと思っています。そういった方たちが地域で親御さんを見守ってくれるだけで、子育てが随分楽になると思うんです。以前はおじいちゃんやおばあちゃんが担っていたその役割を、支援者の方たちが代わりにしてくれたら、社会全体の子育てが温かい方向へと変わっていくのかなと思います。

ずりばいの時の服装は?「なぜ」を教えて選んでもらう

界外:他にも何かやりたいことはありますか?

中原:赤ちゃんのための道具やサービスを開発・提供している企業と一緒に何かできたらと思っています。私たちが商品やサービスの開発に携わるというよりは、企業の方に赤ちゃんの心身の発達について知ってもらうための取り組みです。そういった仕事をしている人の中にも、子育て経験がない方もいらっしゃいます。赤ちゃんの発達や生活を知ってもらうことで、商品やサービスもより安心したものになって、結果的に社会がより良くなり、赤ちゃんたちが安心して暮らせる社会になると思うんです。

界外:そうですよね。多くの企業はお客さんのニーズに応えることで事業を成り立たせていると思います。だからこそ、本当にお役に立てる道具やサービスを作りたいはず。世の中の流れとしても、社会的な責任を持って事業に取り組んでいる企業も増えていると思います。

中原:はい。そして、企業に務める社員さんが妊娠した際に、その企業内で赤ちゃんの発達の話をする機会を持てないかと考えています。働く妊婦さんの多くは産前に時間を取りにくく、出産してからはじめて子どもの発達や健診のことを知ったという親御さんも多いです。妊娠期に知ったほうが安心して産休や育休を過ごせるのではないかと思っています。

私たちが発達について妊娠中に伝えたいと思っても、昼間、親御さんたちは働いていて会えないんです。そして、自治体の両親学級に行く人も減っていると聞きます。

界外:両親学級に行かない気持ち、なんとなくわかる気がします。両親学級では、肌着を何枚用意するか、沐浴はどんな方法でやるのかなどを中心に教えてくれると思うのですが、今はそういったことはネットで調べればわかったりするので。

中原:私たちは従来の両親学級で伝えていたことだけでなく、一つひとつの家族に合わせて一緒に考えたほうがいいことを伝えられたらと思っています。赤ちゃんも、親御さんも、平均的な指標だけではわからないことにぶつかったときに悩むものですから。

得原:考え方にもコツがあると思うんです。たとえば、赤ちゃんの服はどう考えるべきか。気温が何度だから、こんな服を何枚着せる、という判断だと赤ちゃんそれぞれの生活や体質の違いをカバーできません。「汗をかいたら暑がっていて、汗を見るコツは額を触ってみることですよ」とか、「唇の色を見て紫だなと思ったら寒いということですよ」と伝えています。すべての赤ちゃんの体質や季節、室内の温度に対応できる考え方です。

中原:衣服について言えば、運動とも関係があります。ずりばいや腹ばいの時期は、ズボンだと脱げてしまうから、つなぎの方がいいですね。離乳食も、固形物を食べさせるタイミングはどのような口の動きが出てきたときか、そこまでの発達の段階の話や、その理由などを伝えたいです。そうすれば、判断基準が月齢だけではなくなり、それぞれの今の状況に合わせた対応ができると思います。

界外:親御さんたちは、いまおふたりがおっしゃったような、「なぜ」の部分を知りたいのだと思います。自分たちで考え、工夫するための視点を教えてほしいと思っているのではないでしょうか。

追いつめられる前に止める。60点の子育て

界外:ここまで、専門家として親御さんたちに伝えたいことを教えていただきましたが、おふたりはお子さんを育てる母でもあります。ご自身の子育てで大切にしていることを教えていただけますか?

中原:10歳の女の子と3歳の男の子がいます。大切にしていることは、子どもたちときちんと話をして、子どもに決めてもらうことです。0歳児の時からずっと、子どもたちに話しかけています。大人の社会では話を省略することが多いと感じているので、省くことなく、どんなことも一つひとつ説明しています。

得原:この春、小学校に入学したばかりの6歳の男の子がいます。私はいつも、子どもが本当に思っていることを想像するようにしています。子どもは大人と比べて語彙が少ないので、自分の気持ちを言葉で表現する能力も発達途上です。だから、本当はどんなことを思っているのかなと想像するようにしています。
また、大人と呼ばれる頃までに、一人で生きていけるように、自分でできることはできるようになってほしいと思っています。同時に、今すぐできるようにならなくてもいいとも思っています。「あ」を習ったら、書けるようになってもらいたいですよね。でも、そこには時間がかかります。気持ちも、手先の器用さも、文字に向かわないとならない。それにはまず、本人がいっぱいいっぱいにならないことが大切だと思うんです。
心身ともに、毎日60点でいいかなと思っているんです。子どもも大人も、頑張りどきには普段の自分に力をプラスしなければなりません。だから、日常生活は60点でいいと思っています。

中原:私の場合は、思春期になった時にちゃんといい思春期を迎えて、親と離れられるといいなと思っています。要は、必要なタイミングで親から離れたいと思えるかどうかが大事だと思うのです。青年期や壮年期になった時に親に依存している状態だと、自立は難しいですよね。愛着形成というのですが、スキンシップをしながら赤ちゃんの時からしっかりと話をして、子ども自身が自分で決めていく過程をたくさん作ることで、子どもはいつか自立心が芽生えて親から離れていくようになります。自然な姿で自立していってくれるといいなと思っています。

得原:私自身の思春期は、それまでは自分の家族のやり方や意見しか知らなかったけれど、世界や行動が広がって、世の中にはいろいろなスタンダードがあることを知って、自分の家庭に疑問を抱いた時期でした。教科書的な思春期です(笑)。

界外:だから親から離れたくなるんですね。いらだちや怒りもあるかもしれないですね。

得原:そして、親の言うことも一理あったなと気づくのは、大人になってからなんですよね。

赤ちゃんの時から子どもの気持ちを大切にしたい

界外:そういう自然な自立ができる思春期を迎えるには、赤ちゃんの時にどんな関わりが大事だと思いますか?

得原:3歳くらいまでは、彼らは彼らの世界で生きているので、日常生活では大人が言うことを聞くしかないと思っています(笑)。自我を確立する大事な時期です。小学校に入学するくらいになると、親の意見と自分の意見が違うことにも気づき始めます。親の声かけとしては、「あなたの意見はこうですね」と親は子どもに聞いたうえで、「自分はこう思います」と伝えることが大事かもしれないですね。

界外:それが、自分の意見を持つことや、周囲に伝えられる力につながっていくのでしょうか。
得原:親にも親なりの意見があって、子どもには子どもなりの意見があって、お互いに認め合うところから始めないといけないですよね。言うことを聞かせるだけでもだめだし、言うことを聞いてあげるだけでもだめだと思います。

中原:大人だから完璧じゃなきゃいけないということもなくて。大人だって、良い見本も悪い見本も、どちらもあっていいと思います。

そして、便利な育児グッズはたくさんあるけれど、子どもの意見にも気づきたいですよね。たとえば、赤ちゃんはまだ言葉が発達していないけれど、それでも、暴れたり泣いたりしていやがっているようだったら、「もういやだよね」とその時点で道具を使うのをやめる。子どもの様子から考えて動けるようになると、子育ては変わるし、楽しめると思います。

私の考えるコツは、子どもを子ども扱いするのではなく、小さい「人」として接するんです。小さいけれど対等な「人」だと思えば、大人の都合だけで決められないはず。

得原:赤ちゃんは経験値も足りないし身体も小さいけれど、赤ちゃんの立場に立って、今何を感じて動いているのかを意識すると、赤ちゃんのやりたいことが見えてくると思います。

一般社団法人sodatsu-coではInstagramで情報発信しているのですが、そこでは子どもの行動に子どもの気持ちを添付して伝えています。たとえば、「子どもにとっては雨に濡れながら遊ぶのも楽しいよね」というふうに、子どもの気持ちをそこで一回振り返るきっかけになったらいいと思っています。親はどうしても、洗濯物が増えちゃうとか、風邪ひいちゃう、なんて思っちゃいますが。

界外:大人は先回りをしていろいろ考えるかもしれません。でも、でもそういった自分の気持ちと対等なものとして、子どもが楽しんでいる気持ちが分かれば、接し方も変わってくるかもしれないですね。

得原:そうなんです。大人には大人の事情があるから「どうしよう」という気持ちはあってもいいのですが、子どもが感じていることを少し理解するだけで、子どもにもそれが伝わると思います。親が「楽しいよね。でも、そろそろ寒くなってきたし帰ろうか」と言うのと、「帰るよ」と強引に連れて帰るのでは、子どもの受け取り方も違ってくると思います。

大人と子どもとのやりとりでは、「楽しいけど、帰ろうか」が通じる日もあるし、通じない日もあります。そこは意見の食い違いですから仕方ないですよね。その通じない部分は、大人になるまでの間に理解しあえればいいのかなと思います。

界外:すべてにおいて、子どもファーストではないんですね。

得原:そうしたいけれど、実際は生活が成り立たない部分がありますよね。

中原:親御さんも親御さんの生活を楽しんでほしいし、子どもも子どもで生きることを楽しんでほしいです。

得原:家族は譲り合いだと思うんです。家の中でも決まったスペースを分け合って暮らしていますよね。

思春期になるまでに家族で気持ちを譲り合えれば、社会に出た時も譲り合えるようになると思います。家の中のルールをどう作るかが大事で、話し合いで作っていきたいならお互いの人権を認めて、大人も子どもも「ご意見をお伺いします」という姿勢を常に持っていたいですね。

それは、話せるようになる前から、0歳の頃でも同じだと思うんです。赤ちゃんは、小さいけれどいろいろなことを分かっているということも、私たちの活動を通して伝えたいです。それだけで、子どもとの暮らしが変わってくると思います。発達の早い遅いだけを見るのではなく、まずは赤ちゃんの気持ちを理解するきっかけをつくっていけたらと思います。

プロフィール:

中原規予
理学療法士。2005年に資格を取得後、7年の臨床経験を経てフリーランスに。療育センターや児童発達支援事業所に非常勤で勤務しながら、親子向けや子育て支援者向けに子どもの成長発達などに関する講座を行っている。10歳女児と3歳男児の母。

得原 藍
理学療法士。大学でアメリカンフットボールの学生トレーナー、会社員を経て理学療法士の資格を取得。現在はバイオメカニクス(生体力学)の知識や経験を生かした指導者の育成、大学の非常勤講師などを務める。また、子育て支援団体との協働で子育て相談、外あそびなどを行っている。6歳男児の母。

一般社団法人sodatsu-co
乳幼児の発達について親や専門家、企業向けに講座を開催するなど情報を発信。また相談事業も行っていく予定。
Instagram @sodatsu_co

インタビュアー
界外亜由美
産前産後の女性とサポーターをつなぐ「MotherRing」主宰。「MotherRing Journal」編集長。優しさが循環する社会づくりを目指して活動している。「言葉」で伝える制作会社mugichocolate代表取締役。

 

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ライター / 高梨 真紀

ライター。業界紙記者、海外ガイドブック編集者、美容誌編集者を経てフリーランスに。子育て中の女性や働く女性を中心に取材を重ねる。現在は食、散歩、社会的な活動など幅広く活動。ライフワークとして、女性と子どもなどをテーマにした取材も続ける。2人の娘の母。