みなさんは、毎日の子育てを楽しんでいますか。喜びを感じるひとときもあれば、ふと「こんな時、どうしたらいいの?」「これって、このやり方でいいの?」と、迷いが出てくることもあるのではないでしょうか。運動発達の専門家である理学療法士・得原藍さんによる、楽しみながら子どもの育ちをうながす親子の関わり方のコツを教わる連載です。
-目次-
赤ちゃんの運動発達に関わる3つの要素
外あそびは運動発達のチャンス
成長に合わせた外遊び
①外出できるようになってから、首が据わるまで
②首が据わってから、寝返りができるようになるまで
③寝返りができるようになってから、ハイハイをするようになるまで
④ハイハイからつかまり立ちまで
⑤つかまり立ちから歩きだすまで
⑥歩き出したら
赤ちゃんの運動発達に関わる3つの要素
生まれたばかりの赤ちゃんは、身体を自分の意思で自由に動かすことができません。そこから1年〜1年半、日数で考えるとたった500日程度のあいだに、歩くことができるようになります。
今までできなかった運動ができるようになる、というプロセスは、大人にとっては強固な意思と継続的な練習が必要なイメージがありますが、赤ちゃんたちは、大人との生活の中で自然に歩けるようになっていくわけですから、遺伝子に組み込まれているのかもしれませんね。
赤ちゃんの運動発達には大きく3つの要素が関わっています。
・神経組織の成長と機能の成熟・・・身体を動かす神経そのものの組織が成熟し、その機能も向上していきます。
・運動をするための体力の向上・・・整った生活リズムのもとで十分な栄養と睡眠をとることで、身体が大きくなり、体力がついていきます。
・動ける環境の有無・・・身体が成長しても、動かないでいると運動発達は遅くなります。適切な広さ、課題のある環境が必要です。
外あそびは運動発達のチャンス
これら3つの要素は、相互に関わり合っており、例えば、適切な環境で身体を動かすことで神経組織の機能の成熟が進んでいきますし、成熟が進めばさらに身体を自由に動かすことができるようになって、より広い場所が必要になっていきます。また、環境と神経が成熟してきても、栄養や睡眠が足りなければすぐに疲れてしまい、結局は運動不足になってしまうでしょう。
子どもの伸びやかな運動発達を支えるには、さまざまな動きのある遊びと、動ける環境が必要です。外あそびでは、子どもが身体を十分に動かす広さを確保しやすいですし、家の中にはない段差や起伏もあります。また、身体をいっぱい動かして遊ぶことができると、お腹が空きますし、眠くなりますから、生活リズムを整えるきっかけにもなります。
おおまかな運動発達の目安とともに、どのように外であそぶことができるか、考えてみましょう。
成長に合わせた外遊び① 外出できるようになってから、首が据わるまで
こんなに早くから外あそび?と驚かれるかもしれませんが、気候のいい晴れた日に、風にあたりに出かけるようなことで十分です。ベビーカーでも良いですし、抱っこで公園に出かけて、レジャーシートの上に座布団のようなマットを敷いて、その上に寝かせてあげても良いでしょう。お母さんやお父さんにも、ちょうど良い気分転換になると思います。この時期は夜の睡眠時間もまだ安定しませんが、昼間に明るい場所に連れ出してあげるだけでも生活リズムを整えるきっかけになります。短時間から、試してみましょう。
成長に合わせた外遊び② 首が据わってから、寝返りができるようになるまで
この頃になると、仰向けのまま、目の前に持ってきたおもちゃなどを両手に持って遊ぶようになります。また、脚をぐっと持ち上げて、足先を口元まで持ってくるような動きも出てきます。地面に対して高さのある動きができるようになるのです。ベビーカーのように囲われた状態ではなく、木陰の芝生の上にレジャーシートを敷いて寝転がれば、日光や風、鳥の声など自然の刺激を受け、自分の身体であそびながらゆっくり過ごせるでしょう。目で物を追うことも上手になってくるので、外の景色の変化や、公園の木々の枝が揺れる様子なども楽しむことができます。
成長に合わせた外遊び③ 寝返りができるようになってから、ハイハイをするようになるまで
寝返りができるようになると、移動できるようになるのも目前です。もしかしたら寝返りの繰り返しでゴロゴロ移動するお子さんもいるかもしれません。この頃に必要なのは、広い地面です。少し遠くのものに視点を合わせて、それに近づいていきたいという欲求も生まれてきます。外に出ると、家にはないもので溢れていることにも気づくでしょう。芝生にレジャーシートを敷いてその上で寝転がれば、いつの間にかレジャーシートから手を伸ばし、芝生を触ることもあると思います。新たな刺激の発見です。外へ外へと気持ちが動く子は、そのままずり這いで芝生に出てみたりもするでしょう。危険なものが落ちていないか(ガラスやタバコの吸殻など)を確認するようにしましょう。
成長に合わせた外遊び④ ハイハイからつかまり立ちまで
ハイハイするようになった子と公園へ出かけたら、もうレジャーシートはいらないかもしれません。好奇心の赴くままに、行きたい方向へ活動させてあげましょう。自宅にはないものに触った時の手の感触や、芝生から土への地面の変化を楽しみ、段差や起伏ががあればよじ登るなど、大人がわざわざ準備することが難しい環境の複雑さが、子どもたちの運動の能力をどんどん伸ばしていきます。お砂場着という、撥水性の生地で作られたつなぎ(オーバーオールのような形で、足首がゴムで締まっているもの)をご存知ですか。ハイハイでは膝をつくので、どうしても土で汚れてしまうのですが、服の上から着られる外あそび用の一着を持っておくと、気兼ねせずに楽しんでもらえると思います。手が汚れたら洗おうねという生活習慣も、夢中であそんだあとにはすんなりと受け止められるかもしれません。この頃から歩くようになるまで、様々な場所で手をついて移動する経験が、そのさきの歩行で転びそうになったときに、とっさに手が出る身体を作ってくれます。
成長に合わせた外遊び⑤ つかまり立ちから歩きだすまで
この頃になると、公園の遊具などにも興味を示すようになると思います。滑り台を下から登ろうとしたり、段差があれば上まで行ってしまったり、大人から見たらハラハラするような状況も出てくるかもしれません。大人は、落ちないように見守ってあげましょう。また、少し年上の元気にあそんでいる子どもたちが遊具を使っているときは、危ないので少し遠ざかったほうがよいでしょう。この頃の子どもの行動はチャレンジングです。つかまり立ちをして転ぶこともありますが、自転車や逆上がりの練習に失敗がつきものなのと同じように、転倒も練習のひとつです。転んだ先に硬い岩などがないか、角のある縁石がないか、大人は大人の目線で危険を回避して、チャレンジを応援してあげましょう。この頃たくさんチャレンジしておくと、歩き出してからの安定感が違います。
成長に合わせた外遊び⑥ 歩きだしたら
歩きだしたら、できるだけたくさん歩く機会を持ちましょう。道路だけでなく、芝生や、砂利道、少しぬかるんだ場所、土の上、いろんな場所で歩く経験を積みましょう。いつもの散歩コースを作ってしまうのも良いかもしれません。もし公園まで歩道で移動できるような環境があれば、公園までの移動も歩いてもらいましょう。まだまだ目が離せませんが、大人が一歩で進む距離に五歩くらいかかるようなスピードですから、近くを歩いてあげることで危険を回避することもできます。「あそこまでは手を繋ごうね」など、まずは短い距離から、外での移動のルールを練習する良い機会にもなります。ただ、まだまだ一定のペースで散歩を楽しむというよりは、好奇心でたくさん寄り道をする時期でもあります。石を拾ったり、花を見つけたり、ゴールを決めなくても楽しめる散歩にできると良いですね。この頃ちょうど生後1年を過ぎてくるので、出産したお母さんが体力回復に努めるのにも良いタイミングです。お子さんとの散歩を日常のエクササイズと捉えて、少しずつ活動的な毎日を取り戻していきましょう。
運動発達の観点から見ると、外でのあそびは良いこと尽くしです。太陽の光は生活リズムを整える良い刺激ですし、日々変わる天候や、季節の移り変わりで、1日として同じ環境はありません。生まれてきた子どもにとっては、外は毎日新鮮な世界なのです。ぜひ、ふらっと近くの公園に出かけてみてください。まずはベビーカーから。慣れてきたら、レジャーシートを持って。
得原 藍
理学療法士。大学卒業後、会社員を経て理学療法士の資格を取得。病院勤務を経てバイオメカニクス(生体力学)の分野で修士号を取得。これまでの知識や経験を生かし、現在は運動指導者の育成、大学の非常勤講師などを務める。また、子育て支援団体との協働で運動発達に関する相談を受けたり、外あそび活動などを行っている。6歳男児の母。
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