みなさんは、毎日の子育てを楽しんでいますか。喜びを感じるひとときもあれば、ふと「こんな時、どうしたらいいの?」「これって、このやり方でいいの?」と、迷いが出てくることもあるのではないでしょうか。運動発達の専門家である理学療法士・得原藍さんによる、楽しみながら子どもの育ちをうながす親子の関わり方のコツを教わる連載です。
寝返りを始めた子ども。睡眠時に頭を守るグッズは必要?
藍さんこんにちは。生後半年になる子どもがいて、最近寝返りを始めたのですが、けっこう動くタイプみたいで、ベビーベッドの枠に頭をぶつけることもしばしば。予想以上に大きな音でぶつかるので、怖いです涙。あまり動かないようにクッションなどで壁?をつくってあげたほうがいいでしょうか。
赤ちゃんにとっての寝返りの意味
こんにちは、ご質問ありがとうございます。生後半年で寝返りを始めたとのこと、移動ができるようになって赤ちゃんの表情もまたいきいきと変化してきたのではないでしょうか。すでに歩けるようになった大人にとっては、寝返りは寝ているときの姿勢変換でしかありませんが、赤ちゃんにとっては「その場から初めて移動する」体験です。これからぐるぐると寝返りできるようになれば、自分がいる場所を、自分で移動して決めることができるようになるのですね。少しずつ、床を移動する赤ちゃんが過ごしやすい環境を整えていってあげたいですね。
寝ている間の自然な運動を妨げるグッズはおすすめしません
ベビーベッドは、国が定めた基準によって使用年齢が決まっており、一般的には24ヶ月まで、と書かれていることが多いと思いますが、実は寝返りが始まった赤ちゃんにとってはすでに窮屈な環境です。おそらく国の基準は、大人の身体のサイズに合わせて大人用のベッドが作られているのと同様に、赤ちゃんの体格ならばこのくらい、と計算して推奨年齢を出しているのでしょう。どちらかといえば、2歳を超えたら絶対に使わないでね、という基準を示していると思います。
実際は、赤ちゃんは片側の寝返りが得意になることが多いですし、一度寝返った方向へぐるぐると動くようになることが多いので、必然的に柵にぶつかることになります。形状にもよりますが、柵に腕がはまって抜けなくなって泣いてしまう(まだ腕を上手に抜くような器用な動きはできないので)という相談もよく受けます。そうなると、やはりなにか対策をしたくなりますよね。どんな対策があるでしょう。
いま、赤ちゃんグッズの中には、赤ちゃんの寝返り防止用の道具がたくさん販売されています。寝返ることができないように、お腹にぐるりとシーツに固定されている帯のようなものを巻くタイプのものや、赤ちゃんの左右の脇に柔らかいブロックを固定するようなものなど、さまざまです。これらは、たしかに寝返りを防ぐ効果があるでしょう。けれども、わたしは理学療法士なので絶対に使いたくありません。なぜなら、これらは、あかちゃんの自然な運動を妨げる「拘束具」とも言えるものだからなんです。
赤ちゃんは1日の半分以上を寝て過ごすこともあるので、寝ている間にも寝返りを繰り返しますが、それを阻害されるとなると、ふたつの心配なことが思い浮かびます。ひとつは、量として寝返りをする回数が減ること。これは、せっかくできるようになった寝返りを繰り返すチャンスがすくなくなるということなので、身体の使い方のコツを学習する機会が奪われているように思います。もうひとつは、寝返ろうと思っても寝返ることができない環境に長時間置かれていると、寝返りしようと思わなくなることがある、ということです。これは、学習性無力感と言って、やってもやってもだめなことは、諦めてやらなくなってしまうのですね。もちろんこのふたつは誰にでも当てはまることではありませんが、冷静に考えてみて、わたしたち大人が寝ているときに寝返りができないように拘束されたら、どうでしょうか。翌日、きっと身体が疲れているでしょう。そして、睡眠も浅くなるでしょう。赤ちゃんたちも人間ですから、やはり強制的な拘束はしないほうが良いのではないでしょうか。
質問者さんは、柵にクッションなどで壁を作る案を考えていらっしゃいましたね。これはこれで、また、少し危険な方法でもあります。なぜなら、赤ちゃんが寝返って、そのクッションに顔を埋めてしまったとき、呼吸ができなくなる恐れがあるからです。これはクッションなどに限らず、ぬいぐるみや毛布などでも同じことですが、赤ちゃんは顔を覆うものを器用にどかすことはできませんから、できれば就寝時には顔・頭まわりに何も置かないようにしてほしいのです。
そろそろ「床に寝る」トライをしてみましょう
わたしがおすすめする方法は、まずはベビーベッドからの卒業です。お昼寝など短時間の睡眠には良いかもしれませんが、夜間何時間も過ごすには、すでに小さくなってしまったのだ、ということです。おうちに、お母さんと一緒にごろりと眠れる場所はあるでしょうか。一緒に、が難しければ、離れても、お子さんはそろそろ落下の危険性がない床での就寝に切り替えたいところです。または、大人の使っているベッドを壁際に寄せて、親御さんと壁の間に寝てもらう、というのも良いかもしれません。これから、寝返りが上手になってくれば、赤ちゃんはもっともっとベッド上で動き回りますから、できれば先手を打って、睡眠環境を整えましょう。
これから先、必要になってくるのは、動けることができる広さの確保です。
寝返りをする頃になると、思いもかけない回転の勢いに、赤ちゃんが頭の重さを制御しきれずに床や柵にぶつけてしまうこともよく起きます。これは、実はとても大事なことです。なぜなら、ぶつけて痛かった、ぶつけてびっくりした、と感じることで、赤ちゃんの脳は「つぎは顎を引いて頭がぶつからないようにしよう」と新たな運動方法をインプットされていくんですね。寝返りの、床から10センチ・20センチのゴツンには、大怪我に繋がるリスクはほとんどありませんから心配しすぎなくても大丈夫です。逆に、ここで受け身を取ることを憶えた赤ちゃんは、ここから、おすわりや立位での歩行に移行した際に、大きく頭をぶつけないように慎重に動くようにもなっていきます。
もし、寝返りで頭をぶつけて泣いていたら、赤ちゃんがいまの失敗を振り返っている間、あまりそれを打ち消すような大声を出さずにいてくださいね。ころんだ赤ちゃんを急に抱き上げて大きな声を出したりすると、赤ちゃんはいまの出来事を反芻する機会がなくなってしまいますそれは、とてももったいないことなのです。どうしたの?と優しく声をかけ、目を見て、抱っこする?と聞いてみてあげてください。泣き止んでいない状態ならば、隣りに座って背中に手をおいてあげてください。大丈夫だよ、と声をかけてあげるのもいいですね。