手づかみ食べってしないとダメ?子どもの「食べる力」を育む工夫:理学療法士が伝える!楽しくすくすく育つコツVol.49

みなさんは、毎日の子育てを楽しんでいますか。喜びを感じるひとときもあれば、ふと「こんな時、どうしたらいいの?」「これって、このやり方でいいの?」と、迷いが出てくることもあるのではないでしょうか。運動発達の専門家である理学療法士・得原藍さんによる、楽しみながら子どもの育ちをうながす親子の関わり方のコツを教わる連載です。

-目次-
1.手づかみ食べってしないとダメ?
2.無理やりチャレンジしなくてもOK。子どもの様子を見ながら進めよう
3.子どもの様子を見極めるためのポイント

手づかみ食べってしないとダメ?

藍さんこんにちは。生後11ヶ月の子どもの母親です。離乳食後期になり、食べ物を直接自分でつかんで食べようとする動きが出てきました。育児サイトや本などを見ると、バナナやパンなど、自分で手に握りやすい食べ物をあげて「手づかみ食べ」をさせるように、というアドバイスが載っています。
アドバイス通りにバナナとパンをあげてみているのですが、握りつぶしてしまったり、口に上手にもっていけなくて時間がかかりすぎたりして、途中でおしまいにしてしまうこともしばしばです。手でもてあそんでいるだけで食べる気がなさそうなときもあって、少々ストレスを感じています。手づかみ食べって、絶対やった方がいいんでしょうか・・・。

無理やりチャレンジしなくてもOK。子どもの様子を見ながら進めよう

こんにちは。質問を寄せてくださってありがとうございます。11ヶ月のお子さんと、食べる練習をしているところなのですね。食べ物を自分でつかもうとする、ということは、お子さんが「食べる」に向かう意欲は満々。まずこれはとても喜ばしいことです。きっと、たっぷり遊んでお腹が空いて、身体も食べ物を欲しているのでしょう。すくすく成長している証拠だと思います。

さてご質問について。手づかみ食べは「絶対にやらなくてはいけない」ものではありません。お母さんがストレスを感じてしまうなら、今の段階で無理矢理チャレンジをしなくてもいいでしょう。とくに、いまはまだ11ヶ月とのことなので、おもちゃなどの扱いの様子を見ながら「何かを優しくつまみ、口に運ぶ」ということが上手にできるようになってから、自分で食べることにチャレンジしても良いと思います。

大切なのは、手づかみ食べにしろ、カトラリーで食べる練習にしろ、自分で(1)食べ物を選び、(2)手にして、(3)口に運び、(4)適切な量を口に入れて、(5)咀嚼して、(6)飲み込む、という「食べる」の段階は、子どもたちがそれぞれ自分の力で獲得していくしかない、ということです。大人は、そのサポートをしていきます。「食べさせる食事」から「自分で食べる食事」への練習を支援するのが大切なのですね。

たとえば、子どもがおにぎりを食べる様子を思い浮かべてみましょう。大人が食べるような大きなおにぎりを手にして食べるとき、子どもたちは自分の口の大きさに合った食塊を口に含み、噛んで、飲み込む必要がありますね。スイカやとうもろこし、さつまいもやおせんべいなど、これから子どもたちが経験する食事には、さまざまな形状・質感の食べ物がたくさんあります。いま、保育園での誤嚥の事故がきっかけになって、預け先の食べ物は基本的に「喉に詰まらないサイズ」に切り刻まれて出てくるようになっていますが、これから機能が衰えていくお年寄りの食事ならまだしも、子どもたちはいつまでもずっと誰かが細かく砕いてくれた食べ物を食べ続けるわけにはいきません。

ですから、少しずつ、自分で食べ物を食べていく経験は必要です。そのために、カトラリーを使った食事よりも技術的に簡単な「手づかみ」が推奨されている側面もあるのですね。

子どもの様子を見極めるためのポイント

上手に手づかみで食べるようになるには、いくつか子どもの発達を待たねばならないポイントがあります。そして、その発達を待つあいだのコツもあります。今日から試せることもあるので、順に説明していきますね。

①「食べ物」の認識をもたせるコツ
まずは、食べ物を食べ物と認識することが重要です。手づかみ食べで食べてもらいたいものがあったら、まずは大人が同じものを食べて美味しそうにしているところを何度も見てもらうところから始めましょう。形状も同じようにして準備します。その先で、欲しそうに手を伸ばしてきたら、わたしてみてください。欲しそうにしていなければ、わたさなくて大丈夫です。一旦中止して、いつも通りに離乳食をあげましょう。

②「つまむ」動きをうながすコツ
つぎに、指先でものを触れるあそびができるようになること。手のひらで握りしめるのではなく、つまむ動作ができるようになると、格段に手づかみ食べが上手になるでしょう。そこで、ティッシュの空き箱にハンカチを入れてつまみ出したりするような「つまんで動かす」あそびを取り入れてみましょう。ちょっと飛び出たハンカチを、大人がまずは引き出して見せてあげるのもポイントです。冷蔵庫に大きめのマグネットを付けて、指先で外す練習をするのも良いですね。これらもまずは、真似することで動きを試して見るようになります。

③「空腹感」も大事なポイント
それから、しっかりお腹が空くようになる、ということも大切です。固形物はお腹にたまりますから、お腹が空いていないと食べません。食事前後のミルクや母乳を避けて、食事のリズムを整えてみるのもよいでしょう。また同時に、おなかを空かせるためにしっかりと動いて体力を消耗することも大事です。食事で遊んでしまうときには、じつはお腹が空いていない、という可能性もあるのです。空腹を感じて訴える、というのも発達として大切です。「お腹が空かないように」と、子どもの訴えがある前にミルクや食事を提供していませんか。

④手づかみ食べがしやすい食べ物
手づかみ食べにちょうどいい食べ物は、バナナやパンの他にもあります。たとえば、薄く切ったりんご。2−3ミリの厚さに切って、あげてみましょう。この厚さなら、窒息の心配はありません。それから、大根やかぶ、にんじんのスティック(5ミリ位の拍子木切り)を、指の腹でつぶせるくらいにやわらかく茹でたもの。根菜なら、ベタベタしませんから、感触が苦手で掴んでくれない場合などには、試してみても良いでしょう。(大根は皮の内側5ミリ位は辛味が強いので、中心に近いところのほうが子ども向きです。)だし昆布を細く切ってあげるのもよいですね。出しを取る用の硬いものを、5センチ・5ミリ幅くらいに切り出して、おしゃぶりのように舐めたり噛んだりしてもらいます。こうした「少し長いもの」を、どこまで口に入れたらいいかを学んでいくのも、大事な発達のプロセスです。

いろいろ書きましたが、まずはお子さんが「どのように自分で食べるようになっていくか」を想像してみることが大切です。離乳食は、大人と同じものを食べるようになる手前のステップであると同時に、楽しい食事のイメージを育てるタイミングでもありますから、家族で協力して取り組めるといいですね。

ライター / 得原 藍

理学療法士。大学卒業後、会社員を経て理学療法士の資格を取得。病院勤務を経てバイオメカニクス(生体力学)の分野で修士号を取得。これまでの知識や経験を生かし、現在は運動指導者の育成、大学の非常勤講師などを務める。また、子育て支援団体との協働で運動発達に関する相談を受けたり、外あそび活動などを行っている。6歳男児の母。