みなさんは、毎日の子育てを楽しんでいますか。喜びを感じるひとときもあれば、ふと「こんな時、どうしたらいいの?」「これって、このやり方でいいの?」と、迷いが出てくることもあるのではないでしょうか。運動発達の専門家である理学療法士・得原藍さんによる、楽しみながら子どもの育ちをうながす親子の関わり方のコツを教わる連載です。
目次
1.腱鞘炎で抱っこもつらい。対処法は?
2.産後のお母さんが「腱鞘炎」になりやすい理由
3.対処法その1:サポーターで痛みのある部分を軽く圧迫する
4.対処法その2:入浴時、手のひらでグーパー
5.対処法その3:できるだけ手首を使わない動作の工夫
6.専門家の下でのリハビリや周囲のサポートも
腱鞘炎で抱っこもつらい。対処法は?
得原さん、こんにちは。生後3ヶ月の子どもの母です。
生後2ヶ月を過ぎたあたりから、子どもを抱き上げるたびに手首のあたりに痛みを感じるようになっていたのですが、だんだんひどくなってきました。
整形外科に行ったところ、腱鞘炎とのことで湿布をもらってきたのですが、湿布を貼ってもあまり改善せず……。しかも、最近子どもの夜泣きがひどく、抱っこの回数や時間は増えるいっぽうでとてもつらいです。
正直、どうしたらいいか途方にくれています。
何かアドバイスをいただけるでしょうか。
産後のお母さんが「腱鞘炎」になりやすい理由
こんにちは。ご質問お寄せいただきありがとうございます。お子さんが3ヶ月になられたのですね。生まれたときと比べて身体も大きく成長して、しっかりしてきたのではないかと想像します。首も、自由に動かせるようになってきたでしょうか。ご相談内容は、腱鞘炎。手首は毎日の生活で必ず動かさなければならない部分ですから、つらいですね。今日は、腱鞘炎とはなにかをおさらいしてから、工夫できる対処法について考えてみたいと思います。
腱鞘炎は、指を動かしている筋肉の一部である「腱」を包む「腱鞘」という組織が、腱の使いすぎ、つまり指の使い過ぎで炎症を起こしてしまっている状態です。産後のお母さんの身体は、妊娠中に身体に蓄えた水分がまだ全身に残っているので、外からはあまりわからなくても、身体全体が浮腫んで(むくんで)います。産後数ヶ月をかけて徐々に身体の水分量が妊娠前の水準に戻っていくのですが、浮腫んでいるあいだに赤ちゃんのお世話でたくさん指や手首を使うことで、浮腫んだ腱鞘の間を腱が擦れるように動いて、腱鞘炎になってしまうのです。
産後の腱鞘炎は、治るのに時間がかかります。けれども、しっかり対処していけば改善します。大切なのは、途中で再度悪化させないようにすること。少しの工夫を長く続けることが一番の近道なので、長い目で取り組んでくださいね。
対処法その1:サポーターで痛みのある部分を軽く圧迫する
対処法は、大きく分けて3つです。ひとつはサポーターを使うこと。ふたつ目に、お風呂などで痛くない範囲で運動すること。みっつ目は、手首を痛い方向にできるだけ使わないで済むような生活動作をおぼえること、です。ひとつずつ解説していきます。
まず、痛い部分を軽く圧迫するようなサポーターをしましょう。サポーターの目的は、浮腫みを軽減させることです。よく、ふくらはぎを圧迫するソックスで浮腫みが取れる、ということを聞くと思いますが、同じ原理です。できれば親指が通って手首をカバーするような形のサポーターが良いでしょう。それをできるだけ長い時間装着できるようにしてください。水仕事などのときはビニール手袋を活用しましょう。専用の商品も出ています。(一例:https://amzn.asia/d/74hCQll ) 専用のものでなくても、例えば幼児用の「のびのび手袋」のように伸縮性のある小さい手袋の指先を切って指が出るようにして使う、という手もあります(一例:https://amzn.asia/d/hwAjUym )。大切なのは軽い圧迫を常に与え続けることです。これで痛みが改善する、というわけではないですが、根本的な原因のひとつを減らす方法なので続けてみてくださいね。
対処法その2:入浴時、手のひらでグーパー
つぎに、サポーターを外しておふろに入ったときに、痛くない範囲で手のひらでグーパーの動きをすることです。もし、動かすだけで痛い、という状況ならしないほうが良いですが、軽い運動は腱の回復を促します。ストレッチなどで引き伸ばすのではなく、痛くない範囲で優しく動かしてください。
対処法その3:できるだけ手首を使わない動作の工夫
みっつめに、手首をあまり使わないように日常動作を工夫することです。炎症は、同じ場所を使い続けることで悪化してしまいます。赤ちゃんの世話を手首の動きなしで行うことはできませんが、同じように思える動きの中にも工夫の余地がいくつかあります。
まず、赤ちゃんを抱き上げるときには、脇をしっかり締めるようにします。そうすることで、腕の根元の大きな筋肉を使うことができるようになります。それにはしっかり身体、特に胸のあたりを赤ちゃんに寄せて動くことです。胸を近づけずに腕だけで赤ちゃんを持ち上げようとすると、手首への負担が大きいです。抱き上げるときには、身体をしっかり近づける。もう少しでおでこにキスできる、というくらいまで身体を寄せて、腕を赤ちゃんの身体の下に滑り込ませて抱き上げてください。おろすときも同様です。手で赤ちゃんを置くのではなく、身体で置きにいきましょう。
床に手をつく必要があるとき、具体的には床から立ち上がったり、起き上がったりするときには、手のひらを開いて地面に着くのではなく、拳を作って手首をまっすぐに地面に着くようにしてください。拳の、指の骨でできる平らな部分を地面に着きます。ボクシングで手を突き出す時のような手首の向きです。こうすると、親指周辺の腱が引き伸ばされないので、痛みが少し楽になると思います。
また、スマートフォンを片手で持って親指で操作しているようならば、両手持ちの操作に変更してみてください。指の使い方が変わるので、少し楽になるはずです。
専門家の下でのリハビリや周囲のサポートも
こうした動作については、理学療法士や作業療法士の専門分野ですので、もし腱鞘炎を診てもらっている整形外科にリハビリの部門があるようならば、医師に相談してリハビリの処方をしてもらい、「手首に負担がかからない抱っこの仕方、生活の仕方を教えて下さい」と言ってみてください。その際に、リハビリスタッフにこの記事を読んでもらってください。ふだん、産後のお母さんを見慣れていないスタッフだと、産後の腱鞘炎に明るくない場合がありますので。
最後に、できるだけ周囲のサポートを頼るようにもしてもらいたいと思います。痛いときには使わずに休ませる、というのは炎症を抑える一番の近道です。経済的負担が難しかったり、サービスについて調べなければならないという負担もあると思いますが、産後ドゥーラやベビーシッターに日中のお手伝いをお願いすることも選択肢のひとつに入れることができると良いと思います。そのくらい、お母さんの身体は唯一無二の大切な身体ですし、最優先に考えてほしいと思うのです。もし赤ちゃんを抱いてくれる人がいる子育てひろばなどの施設が近くにあれば、いまから赤ちゃんと通うことで人見知りが始まる前に人との交流に慣れてくれるでしょう。
赤ちゃんは、どんどん大きくなります。それにつれて、抱っこをするお母さんの身体の負担も大きくなっていきます。現在は、体力がある20代に出産をする女性が減り、祖父母の年齢も上がり、同居も減少し、子育て環境が一昔前と大きく変化してきています。子育てに家族以外の手を借りることを後ろめたく思わず、必要なときには声を上げて、周囲に助けを求めてくださいね。各市区町村の窓口には相談窓口もありますから、まずは、そこからでも。
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